第127話 文化祭編16
*
井宮さんと前橋くんが仲良いのは知っていた。
共通の趣味を持っているらしく、最近になって良く話すようになったのをずっと見ていた。
放課後に井宮さんが前橋君を教室に呼び出したのが始まりだ。
私はずっと、井宮さんは前橋君の事を好きなのかと思っていた。
でも、井宮さんはそうじゃないっていって、私を応援してくれるとも言ってくれた。
私は正直この時安心した、井宮さんがライバルなんて勝てる気がしなかったからだ。
恐らくだけど、今一番前橋君が心を許している女子は井宮さんだ。
確かにアイドルの宮河真奈も強敵だけど、それ以上に私は井宮さんが敵になった時の方が怖かった。
そして、その真意が今日分かる……。
「ごめんね、あの時答えられなくて……他にも人が居たから」
「ううん、私はもあんな所で聞いてごめん」
井宮さんと向かい合い話しを始める。
先日の私の質問に対する答えを井宮さんは今日話してくれると言っていた。
前は好きじゃないと、私にそう言ったけど……何となく分かるの。
私も同じだから……。
「ごめん!」
井宮さんはそう言って私に頭を下げた。
その行動の意味を私は直ぐに理解した。
「……そっか、そうだよね」
なのになんでだろう。
私は怒りどころか、なんだか清々しい気分だった。
なんでだろう?
ライバルが増えたはずなのに……。
なんでこんなに私は安心しているのだろうか?
「私は多分……あいつの事が好き。でもまだ出会って数カ月だから、正直よくわかってないのかもしれない。高城さんみたいに昔から好きだった訳じゃないから、軽々しく私も前橋の事が好きって言えなかったの……」
彼女は気まずそうな表情で私にそう言った。
本当なら怒って良いのかもしれない。
でも、私は彼女に笑顔でこういう。
「負けないからね」
「え……」
私の返答に彼女は驚いていた。
そして私に尋ねてくる。
「い、良いの!? だって私、応援するってまで言ったのに!!」
「うん、だって人を好きになるのは自由だよ。それに……」
「それに?」
「同じ人を好きになったんだもん、怒りをぶつけるよりも正々堂々勝負したい」
井宮さんは良い人だ。
聞けば、宿泊学習で私が迷子になった時も私のことで圭司君と揉めて、私の為に圭司君を打ったらしい。
それは恐らく間違えた行為だったのかもしれない。
でも、出会って数カ月の私の為に本気で心配して本気で怒ってくれた彼女の行為が嬉しかった。
だから私は怒るのでは無く、彼女にこういう。
「負けないよ」
「……えぇ」
そう言って私は井宮さんと握手を交わす。
*
私はもしかしたら、とんでもない敵を相手にしているのかもしれない。
そう気が付いたのは、屋上から帰る途中だった。
前橋を好きだと打ち明けた私に、彼女は怒るのでは無く笑顔で私を許し、握手を求め『負けないよ』と私をライバルと認定した。
すごいと思った。
普通は怒ると思う。
でも、彼女は渡しにこう言った「怒りをぶつけるよりも正々堂々勝負したい」この言葉に私はまず彼女に一敗したと感じた。
しかし、私はそれでも負けたくないと思った。
それはここまで誰かを好きになった経験がないからだ。
あいつが人気ある理由も分かる。
あいつ自身、あんな捻くれた性格で面倒な奴だが、実際は他人思いで優しい奴なのだ。
だから、自然と人をひきつける。
あいつは気が付いていないかもしれないけど、入学からこの数カ月で前橋のクラスでの評価はウナギ登りだ。
ま、あいつは自覚なんてしてないだろうけど……。
でも、それだけ良い奴だから、良い子にモテるのだろうと私は思った。
「類は友を呼ぶか……本当なのね」
私は教室に戻りながらふとそんな事を呟いた。
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