第126話  文化祭編15

「そんな事ないよ……私なんて……」


 ヤバイわね、気を落としてるわ……。

 まぁ、好きな人を取り合っている相手が人気アイドルだなんて知ったら、誰だって気を落とすわよね?

 私も結構ショックだったし。

 

「あのさ、一つ聞いても良いかな?」


「え? なに?」


「宿泊学習の時から思ってたんだけど……井宮さんって前橋君の事、本当に好きじゃないの?」


「え……」


 その問に対して、私は包丁を持ったまま高城さんの方を見る。

 高城さんの目は真剣だった。



 いよいよ文化祭が明日に迫った日、俺は朝から姉貴に迫られていた。


「明日は文化祭だね」


「ソ、ソウデスネ」


「お姉ちゃん、明日は学校だから明後日学園祭に行きたいの……入場券頂戴」


「嫌だ」


「なんで?」


「絶対に面倒になるから」


「大丈夫よ! 絶対大人しくするから!」


「いや、姉貴は居るだけで大変なんだよ……」


 俺の姉貴は容姿だけは完璧だ。

 だからこそ俺は姉貴を文化祭に呼びたくなかった。

 クラスの男子連中は絶対姉貴に目がいくだろうし、最悪俺を処罰しようとしてくるだろう。

 そんなの絶対に嫌だ。

 しかもこの馬鹿姉貴は何を言い出すかも分からない。

 こんな爆弾を抱えて文化祭なんか出来るか!


「なんでよ! じゃぁ分かったわ! お友達と一緒に行くから!」


「それもだめ!」


 姉貴の友人達もかなりの美女揃いだ、類は友を呼ぶなんてよくいったもので、姉貴の知り合う女性は綺麗な人ばかりだ。

 

「じゃぁなんだったら良いのよ!」


「だから来ないでくれって言ってるんだよ、頼むから」


「良いじゃない! お姉ちゃんも圭ちゃんのコスプレみーたーいー!」


「はぁ……」


 こんな事になるなら文化祭の事を姉貴に離さなきゃ良かった。

 うちの文化祭の一般入場には制限がある。

 まぁ、規模が大きいので制限しないと人で溢れて大変らしい。

 なので、うちの学校では生徒一人につき4枚の入場券が配布され、一枚で三人まで入場が出来る仕組みになっている。


「とにかく、頼むから来ないでくれ」


「ダメだよ!」


「何がだよ……悪いけど姉貴は大人しくしててくれ」


「あぁ~ん! 圭ちゃんの意地悪ぅ~」


「姉貴も早く準備しないと遅刻だぞ」


 俺はそう姉貴に言って家を出た。

 文化祭は明日、一応両親には一枚づつ入場券を渡したが来ないだろう。

 忙しい人たちだし。

 残る二枚はどうせ使わないだろうし、鞄にでも入れて置こう。

 文化祭の前日である今日は文化祭の準備で一日が終る。

 クラスの出し物以外にも部活や委員会の出し物がある生徒も多く、土壇場になって忙しくなる生徒が多いからだ。

 ま、俺は部活も帰宅部だからなにもないので、クラスの出し物の準備が終ったらさっさと帰ろう。


「にしてもやっぱり俺は普通の制服みたいだな」


「お前が選んだ服だろ?」


「それにしてもお前は随分体張ったな……全身真緑じゃんか」


「まぁな、女子が結託してアンタは芋虫の恰好をしろって」


「着ぐるみとかじゃなく、肌にペンキを塗るタイプのコスプレか……ちょっとペンキ臭いぞ」


「うるせぇ! まぁでも女子のコスプレには期待しろ! かなり良い感じに仕上がってるぞ!」


「俺は別に興味ない。衣装も合わせたし着替えてくるわ」


「そうか、じゃぁ俺もシャワーでペンキを落としてくるか」


「あ、シャワー室だけど、なんか故障とかで使えなくなってたぞ」


「え?」


 まぁ、真緑の馬鹿は放っておいて俺はさっさと着替えてしまおう。

 この衣装合わせが終ったら後はやる事ないし帰るだけだ。


「ん? あれって井宮と高城か?」


 着替えをしに更衣室に向かっていると、屋上に向かう井宮と高城を見つけた。

 なんだか二人とも神妙な面持ちだが、何かあったのだろうか?

 気にならないでもないが、果たして俺が気にして良い問題なのだろうか?

 まぁ、確かに二人とは一応友人関係ではあるが……。


「こういうので悩むのが面倒なんだよなぁ……」

 

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