第122話 文化祭編11

「何焦ってるのよ?」


「目の前から鬼が迫ってるんだよ……なんでも良いから早く逃げるぞ!」


「鬼なんかどこにも居ないでしょ? 良いから行くわよ」


「あ、待て井宮!!」


 俺がそう言って井宮を止めた時にはもう遅かった。

 既に俺たちの目の前には笑みを浮かべる鬼が立っていた。

 

「あら圭司君偶然ね」


「か、川宮さん……」


「え? この人アンタの知り合い?」


 川宮さんにビビる俺、未だに誰なのかを理解していない井宮、なんか知らんけど怒ってる川宮さん。

 あぁ……もう帰りたい。


「あ、あの川宮さん今日は仕事じゃ……」


「終って今帰るところなの」


「え? 川宮って……まさか宮河真奈!? うっそ……全然気が付かなかった」


 驚く井宮の横で俺はがたがたと肩を振るわせていた。

 やべーよ、なんか知らないけど怒ってるよ。

 俺、あの人に何かしたっけ?

 それとも今日の仕事で何かあったのか?

 ヤバイ、ここは穏便に別れよう。

 出来るだけ川宮さんを不快にさせないように穏便に別れよう。


「圭司君、お友達?」


「え? あ、あぁまぁ……」


「あ、初めまして。私前橋のクラスメイトで井宮椿って言います」


「そうなんだ、私は彼の所属してる事務所の先輩で……名前はもう知ってるみたいね」


「はい! 有名人ですから! すごいですね、メイクの技術! 全然分からなかったです!」


「ありがとう。仕事柄、これだけ顔を変えないとバレちゃうのよ」


「芸能人って大変なんですね」


 一件楽しそうに会話をする井宮と川宮さん。

 しかし、川宮さんの機嫌はなぜかどんどん悪くなっていく。

 一体どうしたというのだろうか?

 なんで井宮と話をしているだけで機嫌が悪くなるのだろうか?

 

「圭司君」


「は、はい!!」


「もしかしてと思うけど……この子と付き合ってたり……」


「してません!! あだっ!」


 川宮さんの質問に咄嗟に答えると、なぜか井宮から脇腹を小突かれてしまった。

 なんで俺の回りの女子はこう怖かったり、手を出してくる奴ばっかりなんだ……。


「そうなの? うふふ、ごめんなさいね変な事聞いて」


「いえいえ、学校でも偶に言われますから」


「え? そうなの?」


 俺、初耳なんだけど……。

 そう思うとなんだか井宮に悪い事をしている気がしてならない。

 俺と一緒に居る為に、井宮の男を見る目が死んでいるなんて影で噂されていないといいんだが……。


「あら、そうなの? 私、彼からまだ良い返事を貰えてないから嫉妬しちゃった」


「え?」


「か、川宮さん!」


 飛んでもない爆弾発言をこんな大通でしやがった!

 なんなんだこの人は!

 なんでこんなに俺を困らせるんだ!

 楽しいの!?

 人をおちょくってそんなに楽しいの!!

 俺は直ぐに川宮さんの傍に行き耳打ちをする。


「お願いします! 貴方が俺に告ったって話しはどうか内密に……」


「ん……け、圭司君あの……耳、くすぐったい……」


「え? あぁすいません」


 あまりに耳の近くで話し過ぎただろうか?

 そんな事を考えていると、今度は井宮の方から何か黒いオーラを感じる。

 え?

 なんで?

 なんで井宮まで怒り始めるの!!

 井宮の俺を見るはそれまでの目では無く、人を殺しかねない目をしていた。

 てか、俺何かした!?


「前橋……」


「は、はい!」


「ちょっと、寄り道していかない? 宮河さんも一緒に」


「えぇ……是非……」


「い、いや……俺は早く帰りた……」


「「良いわよね?」」


「……はい」


 二人からの言葉の圧力には勝てなかった。

 なんでこうなってしまったんだ。

 二人は何故か怒ったまま、俺を両脇で挟んで逃げられないように陣取り、そのまま近くのファミレスに連行された。

 なんか、すごく嫌な予感がする……。

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