第121話 文化祭編10

「それよりアンタはどれを選んだのよ」


「あぁ、俺はこれだ」


 そう言いながら俺は井宮にコスプレ衣装を差し出す。

 

「……なにこれ」


「テレビアニメ『幻想の向こうへ』のマスコットキャラクター、クマネズミネコのキャンシー君だ」


「いや、私が言いたいのはそう言うことじゃなくて……なんぜ着ぐるみなのって話し」


「いや、お前があんまり露出の多い恰好は嫌だというから、露出を最大限に抑えた衣装を探したんだ」


 我ながら素晴らしいチョイスだと、俺は確信していた。

 だって大人気キャラのキャンシー君だぞ!

 きっとアニメを知らない子供に人気だし、着ぐるみだから目立つこと間違い無しだ。

 しかも井宮のいう通り露出も抑えてある。

 これ以上完璧な衣装があるだろうか?


「どうだ? 中々良いだろ?」


「却下」


「え!? な、なんでだよ! これで決定くらいの勢いだろ!」


「アンタ本当に馬鹿ね! あの恰好でどうやって飲み物を運んだり、注文取ったりするのよ!!」


「あ……」


「考えてなかったのね、まったく」


 喫茶店って事をすっかり忘れていた。

 しかし、そうは言われても井宮のコスプレなんてなんでも似合いそうで逆に困ってしまう。

 こうなったら、俺の趣味で良いか。


「このレディーススーツなんてどうだ?」


「なんでよ! それコスプレなの!?」


「後数年したら嫌でも着るからな」


「スーツって……まぁ、コスプレっちゃコスプレなのかしら?」


「まぁ、正直に言うと俺の趣味なんだけどな」


「はぁ? あんたてレディーススーツが好きなの?」


「OLのお姉さんとか良いよな」


「女子に私にそれを言われても反応出来ないわよ……」


 良いと思うのだがなぁ……。

 井宮なんてスタイルも良いから十分似合うと思うし、何よりスーツなら接客にも問題ないだろうし。


「仕方ない、お前がそういうなら他を……」


 そう言って俺が他の衣装を探しに向かおうとすると、井宮が俺の手を止めた。

 

「ま、まぁアンタがこれっていうならこれでも良いけど……」


「え? 別に無理にとは言ってないぞ? それにお前が着たいのを着ればいいだろ? 折角なんだし」


「う、うるさいわね! 着て上げるって言ってんだから良いでしょ!」


「え? ま、まぁ……良いけど……」


 なんか知らんが、井宮のコスプレ衣装がレディーススーツに決まった。

 本当に良いのだろうか?

 結局、俺はアニメの高校の制服だし、井宮はレディーススーツだし。

 なんか、微妙なコスプレばっかりな気がするけど、まぁ良いか。

 他の奴らはもっと気合入れたのを着るだろうし。

 俺達は衣装を決め、それぞれの衣装の貸出をそのまま英司にメッセージで頼んだ。


「さて、用も済んだし帰るかな」


「あんた、今日は事務所に行かなくて良いの?」


「あぁ、CMの撮影までは大丈夫だ」


「大変ね、タレントさんも」


「からかうなよ。はぁ~あ、芸能活動よりもゲームがしたいぜ」


「ここのところ全然ログインしてないでしょ?」


「あぁ、色々忙しくて……」


 と、俺が井宮と話をしながら家に向かって歩いいると、何やら誰かの視線を感じた。

 一体なんなんだ?

 まさか、あのストーカー野郎がまた!!

 そう思って辺りを見回すが特に怪しい人影は見えなかった。

 まぁ、強いていうならなんか異様にニコニコしている川宮さんっぽい人が向こう側から歩いてくるくらいだろうか?


「どうしたの?」


「井宮、助けてくれ。前から鬼が来る」


「え? 何馬鹿な事を言ってるのよ」


 川宮さんは変装用の化粧で別人になっているため、井宮も川宮さんに気が付かない。

 やばいぞ……なんか知らないけど、あの笑顔は怒ってる笑顔だ。

 俺あの人に何かしたっけ?

 俺は前から来る川宮さんに視線を向けながら、必死に何かしなかったかを思い出す。


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