第111話 初めての好意

「はい、まずはこれを見て下さい」


「見なきゃだめですか?」


「はい、そこ! 嫌そうな顔しない!」


 川宮さんはそう言いながらタブレットを俺に見せながら話す。


「私はご存じの通りアイドルです。なので表だったお付き合いは出来ません」


「あぁ、そうですか……」


 あ、ここのコーヒー結構美味いな。

 

「聞いてる?」


「聞いてますよ」


 へぇー、ドイツのコーヒー豆を使ってるんだ……あれ?

 でもドイツってビールが有名でコーヒーはそうでも無かったような?


「聞いてないわね」


「はい……あ、やべっ」


 無意識に答えてしまった。

 ヤバイどうしよう……。

 川宮さんはため息を吐き、真剣な表情で話し始める。


「分かってる? 私と貴方の今後に関わる重要な話しなのよ?」


「元より付き合わなければ良いだけじゃ……」


「はいそこ、うるさいわよー」


 川宮さんはそう言いながら俺に説明を続けた。


「付き合うとしても隠れて付き合う事になるし、恐らくだけど遊園地とか海とかそう言う人が多く集まる場所には二人ではいけないわ」


「行く気もないですけどね」


 誰が好きでそんなリア充の巣窟みたいな場所に行くか!

 俺は部屋で一日ゴロゴロしながらゲームをする休日が良い!


「その為、恐らくどちらかの家にでおうちデートが主になります」


「はぁ……」


「でも、圭司君も年頃の男の子……きっと狭い部屋で私と二人きりなんかになったら、数秒で狼さんになっちゃうわ」


「なりませんけどね」


「そう言う訳で、私は仕方なく! 本当に仕方なく! 腹をくくる事にしました」


「何に?」


 俺がそう尋ねると、川宮さんは頬を赤らめながら恥ずかしそうに俺に向かってこういう。


「私の初めて……あげようって……」


「ぶふっ!!」


 思わず飲んでいたコーヒーを噴き出した。

 何を言っているんだ、この脳内お花畑のおバカアイドルは?

 ぼっちの俺でも女の子の言う初めての意味くらいは理解できる。

 それに俺も男だ、いつかは誰かとするのだろうと予備知識だけはメチャクチャある。

 しかし、実際女性の方がやる気な感じで来られると、少し恐怖を感じる。


「あの……なんでそんな結論に? 俺たちまず付き合ってませんよ?」


「だって、どこにも二人でいけないなんて貴方が不安になるでしょ? だからせめて……私の体をね……」


 そもそも不安になどならないし、俺はこの人の告白を断ろうと思ったのだが、なぜ付き合う前提で話しが進んでいるんだ……。


「あのこの際だからハッキリ言いますけど、俺はまだ誰かと付き合うとかそう言うのは……」


「じゃぁ、私の事を振るってこと?」


「まぁ……そうですね」


 申し訳ないが俺はこれ以上面倒事を増やしたくない。

 最近ただでさえ知り合いが増え、色々面倒な事になりつつあるのに、これ以上面倒事を増やすのはごめんだ。

 川宮さんには申し訳無いけど、ここは諦めえて貰おう。


「残念ね、私諦める気なんてないわよ」


「え?」


「だって、初めて好きになった人だもん、そんな言葉だけで諦めるわけないでしょ?」


「いや、だから俺はこの先も……」


「未来の事なんて、誰も分からないわ。もしかしたら圭司君が私にベタぼれするかもしれないし」


「天地がひっくり返ってもないですね」


「圭司君、貴方は少しオブラートに包むって事を覚えなさい」


 結局いくら説得しても川宮さんは俺を諦める気は無かった。

 俺の何が一体そんなに良かったのか、正直俺からしたら謎でしかない。

 店から出た後、彼女はサングラスを掛け帽子を被って俺の腕に抱きついてきた。


「どう? アイドルに好かれる気分は?」


「面倒です」


「君は本当に正直ね」


「いきなり呼び出す人を面倒意外になんて言いますか」


「ま、それもそっか……」


「まぁでも……」


「え?」


「少し考えます……俺、貴方の事……嫌いでは無いんで」


 そう言った瞬間、隣を歩く彼女は顔を真っ赤にして黙っていた。

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