第110話 私と付き合って


「はぁ……はぁ……」


「あら、早かったのね」


「川宮さんが……俺を脅すから……でしょ……」


 俺は肩で息をしながら喫茶店で優雅にお茶を飲む川宮さんの前にいた。

 急に呼び出され、しかも来なかったら家族に虚偽の自己紹介をされると言われれば誰だって急いで来る。


「はぁ……全く何なんですか急に」


「それより何か飲んだら? お姉さん奢って上げるわよ」


「じゃぁ、アイスコーヒーで」


 急に呼び出されたんだ、飲み物くらい奢って貰わないと割に合わない。

 俺は呼吸を整えながら川宮さんを見る。

 すると、川宮さんは何故か異様なほどにニコニコしながら俺に話し掛けてきた。

 なんでだろうか?

 俺の知っている川宮さんの笑顔はどこか優しくて元気を貰えそうな笑顔だったのに、今はなんだか殺意と憎悪が籠っている気がした。


「あ、あの……なんか怒ってます?」


「え? そんな事無いわよ……でも一つだけ聞きたい事があるの」


「なんでしょうか?」


「あの電話の女の子は誰?」


「友達です」


「へぇ……」


「………」


「浮気?」


「なんでそうなるんですか」


 まず俺は川宮さんと付き合ってすら居ない。

 浮気として成立しない。


「私行ったわよね? 貴方に好きだって」


「い、言いましたけど……」


 エレベーターでのあの感じはマジだった。

 この人はなんでか知らないが、俺に好意を抱いている。

 なので、何となく川宮さんの気持ちも分かる。

 きっと『なんで私が好きだって告ったのに他の女の家に言ってんだよ』って感じなんだろうなぁ……俺の勝手な予想だけど。


「なんで私が好きだって告白したのに他の女の子の家に行ってるのかした?」


 この人はエスパーか何かだろうか?

 俺の思っていた事と同じ事を怖い笑みを浮かべながら言ったぞ。


「いや、それは……別にやましい気持ちがあったわけじゃないですし……約束してましたし……」


「へぇ~休日に女の子の家に行く約束ってなに? お姉さんにも分かるように説明して貰える?」


「実は神イベがありまして」


「ごめん、全然わからない」


 俺は事細かに川宮さんに事の経緯を伝えた。


「ふーん……ネットゲームねぇ……」


「そうです、井宮と俺はただのゲーム友達であって、全然やましい関係ではないんです。てか、俺の子の顔で女の子にモテると思います?」


「現に目の前にそんな人を好きな人が居るんだけど?」


「眼科をオススメします」


「私の目がおかしいと?」


「ついでに脳外科も」


「頭もおかしいと?」


 やばい……川宮さんの笑顔がドンドン真っ黒になっていく。

 ここはなんとか機嫌をとらないと、また面倒な事を言いかねないぞ!


「あ、あの! 今日の撮影はどうだったんですか?」


「いま、その話しは必要?」


 だめだ!

 俺にはコミュ力が無かった!!

 俺がどうしようかとアタフタしていると、今度は川宮さんは暗い表情で話し始めた。


「ダメね……私」


「え……」


「嫌な女よね……付き合っても居ないのに怒って……自分でも言ってる事がおかしいって分かってるのよ」


「えぇ、かなり無茶苦茶言われてると思ってます」


「あ、そこはしっかり言うのね」


「まぁ……でも……あの……俺も分からないんです。女性に告白されるのは始めてなので……」


「そうなの?」


「はい……その、嬉しかったですよ……正直」


 俺がそう言うと彼女は分かりやすく表情を明るくし、機嫌を直した。


「そ、そう……じゃ、じゃぁ私とその……」


「いえ、その申し訳無いんですけど付き合う事は……」


「分かってるわ! 私もその辺はしっかり考えなくちゃと思って色々考えてきたの!」


 そう言いながら川宮さんはタブレット取り出し、俺に見せてくる。

 そこには大きく『私と付き合うという事は!!』と大きく書かれていた。

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