第109話 アイドル様

「宿泊学習ではあんなに何も出来なかったのに……成長したな」


「なんでそんな感動してるのよ」


 宿泊学習でのあの包丁捌きを見る限り、井宮は全く料理が出来ないのだと思っていたがそれは俺の勘違いだったようだ。

 

「やっぱり、女子は料理くらい出来ないとな」


「なんか段々腹立ってきたわ」


 俺は井宮が作ってくれたオムライスを食べ終え、そのまま床に寝転がった。


「はぁ~満腹、満腹~」


「そう……よかったわ」


「さて、イベントの周回も終わったし、俺はそろそろ帰ろうかな」


「え? もう?」


「いや、元々イベント回るのが目的で今日はお前の家に来たわけだし、用事が終ったんだから変えるだろ」


「そ、そうかもだけど……あ、あのさ! 映画でも見ない?」


「映画? 何か面白い映画でもあるのか?」


「アンタが見たいって言ってたアニメの映画、私が登録してるビデオオンデマンドサービスで見れるようになってるのよ」


「なに!? それは本当か!!」


「どう? 見ていく?」


「あぁ、もち……」


 俺がそう言いかけた時だった、俺のスマホが珍しく音を立ててなっていた。

 電話なんて早々来ない俺のスマホ、最初は井宮のスマホが鳴っているのかとも思ったが、俺のポケットから聞こえて来るのでそうでは無いらしい。


「すまん電話だ」


「あぁ、良いわよ別に」


「もしもし?」


『あ、もしもし? 圭司君?』


 電話の主は川宮さんだった。

 一体何の用だろうか?

 

「何か用ですか?」


『実はね仕事が今日は早く終って、私今暇なんだけど、お茶でもどう?』


「あぁ、すいません。今は無理ですね、友達の家に居るので」


『え? 圭司君……友達居たんだ……』


 驚いたような声で話す川宮さん。


「気持ちは分かりますが、居るんですよ」


『そう、それなら仕方ないわね。また今度誘うわ』


「すいません、あと出来ればそう言う誘いは……」


 出来るだけやめて下さいとそう言おうとした瞬間、俺は井宮に話し掛けられた。


「アンタ、コーヒーとか飲める?」


「え? あぁ、問題ない」


「そう? じゃぁ飲み物持ってくるから」


「おう」


 全く、井宮も電話中に話しかけて来るのはやめて欲しいものだ。

 

「すいません、それで……」


『え? 待って待って……女の子と一緒なの?』


「はい、そうですけど?」


『二人きり?』


「はい」


『場所は?』


「あいつの部屋ですね。今からちょっと映画を……」


『圭司君』


「はい?」


『今すぐ来て』


「え? いや、ですから……」


『良いから来るの!! でないと私が圭司君の家に押しかけて、親御さんに貴方の息子さんとお付き合いしています、是非結婚させて下さいって言いに行くわよ!!』


「何とち狂った事を言ってんすか! やめて下さいよ!」


 ただでさえうちの両親は人の言葉を信じやすいんだ、そんな事を川宮さんからうちの両親に言われたら、お袋が……。


「圭司、可愛いベビー服が売ってたの早く孫の顔を見せてね」


 なんてアホみたいな事を言い始め、川宮さんを俺の彼女として認識し、月一で食事会を開こうとか馬鹿な事を言いかねない!!


『じゃぁ今すぐ来て! 駅前の喫茶店に帽子とサングラスつけて居るから』


「な、なんで俺が……」


 俺は直ぐに立ち上がり、スマホを持って部屋を出る。


「井宮悪い! 急用だ! 悪いけど今日は帰る!」


「え!? ちょ、ちょっと!!」


 俺は井宮にそう言い、直ぐに家を出て駅前に向かった。


「なんで休みの日にこんな事を……」


 俺は走って駅前に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る