第106話 本気の彼女
「あの……」
「なにかしら?」
「近くないですか?」
「そんな事無いわよ」
そう言いつつも川宮さんは更に俺の手を握ってくる。
うん、絶対に近い。
てかもう近いを通り越してべたべたして来ている。
「さて、それじゃぁ説明に戻るわよ」
「え? スルーするんですか?」
「何か気に留める事があるからしら?」
このマネージャーさんは一体何を言ってるんだ?
目の前の貴方の事務所のエースが男にピッタリ張り付いて居るというのに。
「あぁ、聞いたわ貴方たち部屋色々やったんでしょ?」
「あの、言い方気を付けてもらえません? 誤解を産むので」
「はい、しました」
「貴方は満面の笑みで答えないで下さい」
「まぁ、真奈なの気持ちも分かるわ。それに恋愛に関してはうちの事務所はバレないようにするなら全然容認するわ」
「なんですか、その適当な規則」
「あんまり規則で縛っても可哀想だしね」
今時随分珍しいやり方の事務所だな。
大丈夫なのか色々?
てか、この人はあれだよな?
本当に俺をからかってるんだよな?」
「それで説明の続きだけど、このCMは初恋よ! 初恋の甘酸っぱい感じを出したいの! 圭司君、恋をした経験は?」
「全くないです」
「じゃぁ、CMの撮影前に経験してきて!」
「いや、無理です。モテないので」
俺がそう言った瞬間、隣の川宮さんが俺のほっぺを突いてくる。
「もう~それ本当? お姉さんにあんな事させたくせぃ~」
「何もしてないと思いますが……」
「この際相手は誰でも良いわ。とありえず恋を経験しなさい! 真奈は今の気持ちを忘れなければ撮影は大丈夫そうね」
「はい! 今回の仕事はすごく上手く行く気がします!」
「頼もしいわね! それじゃぁ今日はここまで! 解散!」
「なんだよ解散って……」
岡島さんのその言葉でその場はお開きとなった。
はぁ……CM一本の撮影なんて簡単かと思ったけど、意外に大変そうだな……。
俺は貰った企画書を見ながら事務所を出てエレベーターに乗った。
すると、俺に続いて川宮さんがエレベーターに乗って来た。
「なんか色々大変なんですね、芸能人って」
「うふふ、そうね。でも私は最近楽しいの」
「なんでですか?」
「誰かさんとが事務所に入ったからかしらね、それとも新しい自分の気持ちに気が付いたからかしら?」
「はぁ?」
何を言っているのか良く分からなかった。
まぁ、仕事が楽しいのは良いことだと思う。
そんな事を考えていると、急にエレベーターが停止した。
「ん? なんだ?」
「機械のトラブルかしら? 怖いわ圭司君」
「全然怖がってる感じがしないんですが?」
川宮さんはそう言いながら俺の腕にしがみつく。
どうせ直ぐに復旧するだろうと思い、俺はスマホを取り出してゲームをしながらエレベーターが動くのを待った。
「ねぇ、圭司君」
「なんですか? そろそろいい加減離れてもらえます?」
「昨日の返事、私まだ聞いてないんだけど?」
「昨日? 一体何のはな……」
「好きだって話し」
「………」
俺は川宮さんの話を聞き、スマホを操作する指を止めて彼女を見た。
「あの、冗談はやめて下さい。貴方は人気アイドルなんですよ? 軽々しくそんな事を……」
「軽々しくなんて言ってるつもりないんだけどなぁ~。あ、チューしたら信じてくれる?」
「何馬鹿な事を言ってるんですか。やる気も無いくせに」
俺みたいな不細工にキスなんて出来る訳がない。
出来たとしたら、それはかなり精神力の強い女性か、本当に俺が好きな人だけだ。
川宮さんに限ってそんな事出来るわけがない。
なんて事を考えていると、川宮さんがつま先立ちで俺の目線に自分の目線を合わせ、真っすぐに俺を見つめる。
頬は赤く染まり、俺を見つめるその大きな瞳はとろんと垂れ目になり艶やかな声で俺に尋ねる。
「して良いの?」
「え? あ、いや、御冗談を……」
「良いの?」
「で、出来ないでしょ?」
「出来るよ……だって……大好きだもん」
川宮さんはそう言いながら顔をドンドン近づけてくる。
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