第105話 初仕事

*



 放課後、俺は高城に昨日の件を話し終え、そのまま真っすぐ芸能事務所に向かっていた。

 昨日親にも話して一時的に芸能事務所に入る許可を貰ったので、承諾書を持っていくのだ。

 これを提出して俺は晴れて芸能人になる。


「お疲れさまでーす」


「あぁ、圭司君お疲れ~」


 事務所に行くと満面の笑みを浮かべたマネージャーの岡島さんが待っていた。


「持ってきましたよ承諾書、親も認めてくれました」


「ありがとう、それにしても親御さん良く簡単に許してくれたわね」


「まぁ、姉の助言もありましたから」


 俺にしたら姉さんが事務所に入る俺を止めなかった事に驚きだ。

 何か理由を付けて阻止してくると思ったのだが、母さんを説得するのに協力までしてくれた。

 ありがたかったが、正直何か裏があるのではないかと少し警戒してしまうが……。


「あぁ、お姉さんは他の事務所のエースだもんね、カリスマ女子高生の前橋知与さん」


「あぁ……実際そんな立派なもんじゃないっすけど」


 俺は承諾書を手渡し、そのまま家に帰ろうとしたのだが……。


「それで仕事の話しなんだけど!!」


 がしっと俺の腕を岡島さんが掴んできた。

 キラキラと目を輝かせ、もう片方の手には企画書と書かれた紙の束を持っていた。

 

「い、いきなりですか……俺、事務所に入ったばかりですよ」


「だからよ、私は貴方を売り出すためのプランを考えて来たわ。昨日寝ながら」


「それは多分夢です」


 そんな事を言われても、俺はCM一本に出演して終わりという契約書にサインをしたんだが?

 売り出すも何も、CM一本で終わりなのだからそこまで一生懸命にならなくても良いのではなかろうか?


「それで貴方の記念すべき初仕事なんだけどね!」


「はい」


「秋に放送を予定している飲料水のCMに決まったわ」


「へぇー」


「しかも大物タレントとの共演よ」


「そうでうすか。あ、コンセント借りて良いですか? スマホ充電したいので」


「貴方、やる気無いでしょ?」


「ありますよ、仕事ですから」


 俺はそう言いながらスマホでゲームを楽しむ。

 最近は忙しくて中々スマホのゲームにまで手が回ら無かったからな、ここでやれなかった分を取り返しておかないと。

 なんて事を考えながらスマホを弄っていると、岡島さんが俺のスマホを取り上げ企画書を俺に突きつけてくる。


「契約したんだから、私の指示にしたがって貰うわよ? け・い・じ・君?」


「………はい」


 目がマジだった。

 俺、もしかしたら選択ミスったか?

 そこから、岡島さんはマジな顔で俺にCM撮影の説明をしてきた。

 秋に新発売される飲料水のCMらしく、テーマは秋の初恋の味らしい。

 その為俺意外にも出演者が居るらしい。


「それでその出演者なんだけど、そこは貴方も知り合いの方が仕事がやりやすいと思って、同じ事務所の先輩である真奈にしたから」


「え!? か、川宮さんですか?」


「そうよ、スポンサーの方も真奈を是非使って欲しいって言ってきてるから丁度良いわ」


 いや、まぁ良いんだけど……色々気まずいんだよなぁ……本気かどうかは分からないけど、俺あの人に告られてるし。

 いや、あれは本当に告白だったのか?

 もしかしたら俺をからかっていただけ何じゃないのか?

 そうだ、きっとそうに違いない。

 なんだ、そうなのか!

 そうと分かれば全然気まずくなんて無いぞ!

 そんな事を俺が考えていると事務所の扉が開き誰かが入って来た。


「あ、真奈も来たわね」


「お疲れ様です。あ、圭司君も来てたんだ」


「はい、今日正式に契約なので」


「そっか、そっか。じゃぁCMの件も聞いたの?」


「はい、川宮さんと共演だと今」


「一緒に打ち合わせするから、今からでも混ざってくれるかしら?」


「はい、分かりました。それじゃぁよいしょっと」


 そう言って川宮さんは俺の隣にピッタリとくっついて座ってきた。




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