第104話 パソコン二台は羨ましい

「あのさ、アンタどうせなら明日うち来なさいよ」


「え? イベントはどうするんだよ?」


「私、パソコン二台持ってるから貸すわよ。どうせなら一緒に家でやりましょ」


「確かにその方が色々都合が良いか」


 わざわざ通話する手間もないし、連絡を取ってゲーム内で待ち合わせる必要もない。

 一緒に同じ部屋でやるのは確かに一番手っ取り早いな。

 てか、こいつパソコン二台持ってるのかよ、普通に羨ましいんだけど。


「よし、じゃぁ井宮の家行くわ」


「そ、そう……ち、ちなみに明日はその……家族いないから……」


「そうなのか? じゃあ緊張する必要が無くて助かるな」


 友達の両親とか、出来ればあんまり顔を合わせたくないからな。

 挨拶したり、気を使ったり色々面倒だからな。


「お、そろそろ昼休みも終わりだな。教室戻ろうぜ」


「え、えぇ……あ、あのさ」


「ん? なんだよ」


「あ、明日私の家に来ること、誰にも言わないでね……」


「え? なんで?」


「なんでもよ! 良いから絶対に言わないで!」


「わ、分かったけど……」


 強い口調で念押し気味にそう言う井宮。

 まぁ、誰かに言うつもりなんてさらさらなかったのだが、なんで口止めされるんだ?

 あ、あれか。

 俺みたいな不細工を家に呼んだなんてバレたら、変な噂をされるからか。

 まぁ、女子は噂が好きだからな。

 俺はそんな事を考えながら、井宮と一緒に教室に戻る。

 放課後は高城に話すか、英司は……面倒だからいいや。





「高城、急に呼び出して悪かったな」


「う、ううん。全然いいけど、どうしたの? 急に話があるなんて」


 放課後、俺は屋上に高城を呼び出し、昼休みと同じように高城に何があったのかを説明する。


「そ、そうなんだ。確かに朝のニュースでもやってたよ、宮河真奈を狙った悪質ストーカーのツイートって」


「あぁ、でも事務所側が色々してくれたからな、そこまで大事にはなってないみたいだ」


 そのニュースは俺も見た。

 どうやら、あの男は昨日すぐにあの写真をネットに上げ、色々な事を暴露したみたいだが、俺の作戦がうまくいき、事務所側の発表を信じるファンの方が多かった。

 しかも、男のツイートを見た他のファンが『それよりお前のやってる事犯罪じゃね?』というコメントを送り、男のアカウントは炎上、今はアカウントも削除されているらしい。

 俺の作戦がうまくいって何よりだ。


「そ、そっか……色々大変だったんだね」


「まぁな、そんなわけで俺は芸能事務所のタレントになった。とりあえずサインいるか?」


 なんてな。

 俺はCMに一本出演したら消える一発屋。

 そんな奴のサインなんて誰も欲しがらない。

 

「下さい!」


「え? いるの?」


 まさかこんな身近に欲しい奴がいるなんて……てか冗談で言ったのに。


「いや、冗談なんだけど……それに事務所に入ったけど、まだ芸能活動とかしてないし」


「え? あ、そっか……じゃぁ、デビューしたら頂戴!」


 あ、やっぱりいるんだ。

 俺のサインなんか貰っても仕方ないと思うんだけどなぁ……。

 まぁ、CM出演決まったら渡そう。

 俺の最初で最後のサイン。


「まぁ、話しはそれだけだ、高城にも色々世話になったからな」


「そ、そんな……私は何もしてないよ」


「いや、色々話聞いてくれたしな。あ、それと買い物に行く約束、あれいつにする?」


「え……お、覚えててくれたんだ」


「まぁな、行きたくないなら良いけど」


「ううん! 行く行く! い、いつが良いかな? 明日から休みだけど……」


「明日は予定があるから、明後日とかどうだ?」


「ぜ、全然良いよ! どこ行こうか? それにしても結構急だね」


「あぁ、まぁこれから少し忙しくなりそうだからな」


 事務所関連で色々忙しくなるからな、今のうちに約束を果たしておかないと約束を忘れちまう可能性があるからな。

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