第103話 芸能人になりました

「そ、それって……私を女の子としてって……事?」


「え? 女の子って言うか。人として自分は貴方が好きですよ」


「え? あ……あぁ……そういうことねぇ……うん、知ってたー」


 なんでこの人は急に顔を赤くしたり青くしたりするんだろう?

 感情の豊かな人だなぁ~。


「あの……どうしたら良いですかね? 俺マジで好きですよ? 川宮さんの事」


 今回の件だって俺に迷惑を掛けまいと一人で解決しようとしてたしな。

 人として川宮さんは立派だ。

 流石は親元を離れて一人暮らしをして働いているだけはある。


「もう……圭司君っていつもそんな感じなの?」


「え? どういう意味ですか?」


「はぁ……全く君は……もう!」


「え? ちょっ! またですか?」


 川宮さんはそう言いながら再び俺に抱きつく。

 そして耳元でこうささやいた。


「今回はこれで許すけど……次そんな事言ったら……もっとすごい事するから」


「え? 一体何うぉい!」


 川宮さんは俺にそうささやいた後、俺の首筋にキスをした。

 俺は急な事で驚き声をあげる。

 

「な、なにすんですか!」


「変な事を言った罰! もう次は許さないからね」


 俺何かしただろうか?

 なんで俺は罰を受けたんだ?

 あれか?

 さっきの失礼の罰ってことか?

 というか、もう帰って良いだろうか?


「あ、そう言えば疲れてたんだよね? どうぞ上がって」


「いや、もうそろそろ帰ろうかと……ここに居ると更に疲れる気がするので」


「まぁまぁ、美味しいお茶を入れてあげるから」


「え? いや、ちょっと」


 俺はそのまま川宮さんに部屋に連れ込まれた。





「んで、急に何よ突然私を呼び出して」


 事務所に入る事が決まった日の翌日、俺は井宮を屋上に呼び出していた。


「実は……俺、今日から一発屋芸人になるんだ」


「アンタはいきなり何馬鹿な事を言ってるのよ……頭でも打った?」


「いや、本当の事なんだ」


 相談に乗ってもらっていた井宮と高城には事務所に入った事を言っておこうと思った。

 今は昼休みで高城は友達と飯を食いに行ってしまったので俺は井宮だけ呼び出して話をしていた。

 

「ふーん……なんで急に事務所に入る気になったのよ、アンタの勝手だけど」


「まぁ……色々あってな」


「あっそ……じゃぁ、その……私とあんまりゲームとかできなくなるの?」


 不安そうな表情でそう尋ねてくる井宮。

 そんなに俺とのゲームの時間を大切に思っていてくれたのか……やっぱり井宮良い奴だ。


「いや、まぁ契約としてはCMに一本だけ出るっていうだけだし、お前とはいつも通りゲームできるよ。それに俺もお前とゲームしたいし」


「そ、そう……ま、まぁ私はどっちでも良いけど」


「あ、それより新しいイベント見たかよ! イベント報酬豪華じゃね? 明日一緒に回ろうぜ!!」


「あぁ、あれでしょ! 大魔王襲来ってやつ! 明日は丁度休みだし、お昼から回るわよ!」


「そうだな! いやぁ~もう既に神イベの予感がするわ~」


 井宮はなんかあっさり流してくれた。

 まぁ、別に井宮に何か実害があるわけでもないしな。


「あ、一つ聞きたいんだけど良い?」


「んあ? なんだよ」


「アンタ……あのアイドルとその後どうなの?」


「え? あぁ川宮さんか」


「川宮? 宮河でしょ?」


「いや、それは芸名だ、あの人の本当の名前は川宮李亜さん」


「ふぅん……」


「なんだよ、何か言いたげだな」


「随分詳しいのね」


「まぁな、色々あったんだよ」


 俺がそう言うと井宮はなんだかつまらなそうな顔でスマホを取り出し弄り始めた。


「確かそのアイドルと同じ事務所なんだっけ?」


「あぁ、もともとスカウトされるようになった切っ掛けも川宮さんだしな」


「………何よ……アイドルなんて卑怯じゃない」


「え? 何か言ったか?」


「なんでもないわよ馬鹿」


 井宮はそう言った後、屋上を後にした。

 なんで俺は罵倒されたんだ?

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