第100話 芸能人って言われても分からない人居るよね?
*
「本当なの?」
「はい、まぁそれしかないので」
芸能事務所というのは案外質素なものだ。
芸能人がたくさんいるのかと思えばそうでもなく、スーツ姿の人たちがせわしなく働いていた。
事務所の応接室に通され俺はマネージャーの岡島さんと話しをしていた。
一緒に来た川宮さんはなんだか暗い表情で俺と岡島さんの話を聞いて居た。
「まさかこんな形で貴方がうちに来てくれるなんて……これから私の事は女王様とお呼びなさい!」
「なんでですか、普通にマネージャーって呼びますよ。それと契約はCM一本に出演するだけだ、それ以上の仕事はしない!」
「わかってるわ、それは任せて」
「それと、アリバイのい方はちゃんとしてくださいよ」
「えぇ、こっちもうちの看板アイドルにスキャンダルなんて御免よ」
「はぁ~あ……」
俺はそんな話をしながら、差し出されて書類にサインをした。
「両親からのサインは明日でも持ってきます」
「えぇ、分かったわ。それじゃぁよろしくね、前橋君……あっ! 芸名は前田慶次とかにする?」
「しません」
誰が天下御免の傾奇者だ!
まぁでも多少とはいえ芸能活動をするんだし、芸名は必要か……良い名前を考えておこう。
俺はそんな事を考えながら書類を岡島さんに渡し、席を立った。
「それじゃぁ俺はこれで」
「えぇ、明日からよろしくね」
「あ……じゃ、じゃぁ私も……今日はオフなので……」
「わかってるわ、大丈夫よ。そのストーカーが何をしてきても、事務所が貴方を守るわ」
「ありがとうございます」
俺が川宮さんが所属する芸能事務所に行った理由、それは事務所とのマネジメント契約を結ぶためだ。
あのストーカーがあの写真をメディアやネットにさらしたとしても、俺が同じ事務所に所属していればなんとでも説明が出来る。
ましてや相手が事務所の後輩で年齢も近いわかれば、事務所の新人教育の一環という発表も納得するだろう。
「ねぇ……」
「はい?」
「良いの……あんなに事務所に入るの嫌がってたのに」
「まぁ、頼みを受け入れた時点でこの問題は川宮さんだけじゃなくて、俺の問題でもあったので」
「でも……元はと言えば私が貴方にお願いしなければ……」
「まぁ、そうですけど……サイン貰っちゃったんで」
俺はそう言いながら川宮さんの方を向いて笑う。
あのサインは金を出して手に入れられる物ではないし、十分これだけの事をする価値のあるものだ。
だから別に俺は後悔なんてしていない。
サインのお礼を追加したと考えれば安いものだ。
「……ねぇ」
「今度はなんですか? あ、一応心配なので今日は家まで送りますね」
「うん……圭司君は誰にでもあんなに一生懸命なの?」
「え?」
誰にでも一生懸命?
そんなつもりはないし、どちらかというと俺は面倒臭がりだ。
別に俺は川宮さんの為に頑張ったわけじゃない。
ただ俺にも責任があったと思っただけだ。
確かに彼女の提案が原因とは思ったが、川宮さんからサインを貰った俺も悪かったしなぁ……。
「別に誰でもじゃないですよ」
「え……」
「俺は川宮さんだったから頑張ったんです」
サインくれたし。
それにこうやってゴマ擦っておけばまたサイン貰ってきてくれるかも。
なんてことを考えていると川宮さんの住んでいるマンションまでやって来た。
「あ、つきましたね。それじゃぁ俺はこれで……」
「ま、まって!」
「はい?」
帰ろうとする俺を川宮さんは引き留めた。
「きょ、今日は色々疲れたろうし……す、少し家で休んでいかない?」
「え? あぁ……まぁ、それなら……」
確かに少し疲れた、休ませてもらいたいという本音もある。
しかし、一人暮らしの女性の家に入るのはなんだか気が引ける。
「き、気にしなくて良いから……少し話したいこともあるし」
「え? あぁ……そうですか……なら……」
川宮さんにそう言われ、俺は川宮さんの部屋にお邪魔する事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます