第99話 不細工でも女の子を助けてもいい
「お、お前は!! この前真奈ちゃんと一緒だった!!」
「おっさん、いい歳して虚しくねぇの? 子供を脅して楽しいの?」
「な、なんだと!!」
憤慨する男に圭司君は呆れた様子で話かけていた。
彼は私の肩を強く抱き、言葉をつづけた。
「お、お前も言う通りにしないと人生終わりだぞ! アイドルと隠れてデートなんてバレてみろ! ネットで個人情報バラまかれて、質の悪いファンに嫌がらせされるんだ!」
「あんたがそれを言う?」
「なんだと!」
「言っておくけど、あれは別にデートでもなんでもない」
「嘘をつくな! ぼ、僕はちゃんとカメラにその様子を収めたんだ!!」
「あっそ、それじゃぁ俺たちがいつ恋人らしい事をしたんだ?」
「ずっと手を握っていたじゃないか!!」
「それははぐれないためだ、映画館もレストランも人通りの多い場所だったろ? それに休日でいつもより人も多かった」
「そ、そんな言い訳……」
「じゃぁ、お前は俺たちが恋人だと証明できる決定的な何かをとらえたのか?」
「そ、それは……」
「俺が彼女にキスでもしたか? ホテルにでも誘ったか? そんな事をしてないだろ? 俺たちはただ遊んでただけだ、全部アンタの勘違いだと言われればそれで終わりだぞ」
「な、なんだと!!」
なんでだろう、彼が来ただけで振るえが止まった。
なんでだろう、彼は私の為になんでこんな事をしてくれるんだろう。
なんでだろう、彼の言葉を聞いて、彼の姿を見て、私の鼓動はなぜこんなに早くなるのだろう。
*
帰った振りして川宮さんを付けて良かった。
やっぱりストーカー男が川宮さんを付けてた。
なんとか間一髪のところで助けに入れた。
全く、なんで俺がこんな面倒な事をしてるんだか……。
これは川宮さんには後で人気声優の桜ヶ丘翔子(さくらがおか しょうこ)さんのサインを貰わないと割に合わないな。
「い、良いだろう! そんなにいうなら今ここでネットに拡散してやる!!」
「あぁ、良いぜ。それで痛い目に合うのはアンタだけどな」
「な、なに!?」
「例えお前がその情報をネットに上げたとしても、川宮さんの事務所がこう発表するだけだ。宮河真奈は事務所の新人に演技についての指導をしていただけだと」
「え……」
「な、なんだと!! そんな話しネットの誰も……」
「じゃぁ聞くけど、アイドルに付きまとう一ファンと売れっ子アイドルを抱える有名事務所の公式発表……どっちを皆信じるかな?」
「ぐ……そ、そんなの……」
「いい加減にしろって……アンタに勝ち目なんて無い。それとも今ここで警察を呼んでやろうか?」
俺はそう言いながらスマホの動画を男に見せる。
そこには川宮さんが学校を出た後から、ずっと尾行する男の姿が写っている。
「んな!? なんで!!」
「もしかしてと思って川宮さんの周りを見て見たら、アンタが居てな……悪いがアンタの事をずっと撮らせて貰った、これは良い証拠になるだろ?」
「く、くそ!! ひ、卑怯だぞ!!」
「いや、アンタには言われたくない」
「く、くそぉぉぉぉ!! バラしてやる!! 全部バラしてやる!!」
「……もっと利口な判断をしてほしかったけどな……それなら仕方ない、勝手にしろよ」
そう言って男は走り去っていた。
はぁ……結局一番俺にとって面倒な事になってしまったな。
さて、今からアリバイつくりを始めないとな。
「大丈夫ですか川宮さん?」
「………うん」
彼女はそう言って頬を赤く染めて下を向く。
恐らく疲れたのだろう。
「疲れてるとこ悪いんですけど、一緒に来てもらいますよ」
「え!? い、一体どこに!!」
「何そんなビックリしてんですか? 貴方の事務所ですよ」
「あ……そ、そっか……え? でもなんで? てか、さっき新人って……」
「まぁ、その意味はこれからわかりますよ。はぁ……面倒だなぁ……」
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