第95話 気のせいなら良いのだが

 午後三時、俺はマネージャーさんから名刺をもらいに校門外に向かった。

 そこにはあまり見たくない軽自動車が一台止まっていた。

 

「すいません、ありがとうございます」


「まぁ、私も心配だからね。それよりも……」


「はい?」


「なんで、あの子をそんなに気に掛けてるの? 正直貴方には関係ないことだし、貴方の性格上、そういうことは面倒臭がると思っていました」


「……ま、確かに面倒ですよ。でも……」


「でも?」


「一応俺、あの人の彼氏役なんで」


「ふーん」


「なんすか」


 マネージャーさんはなぜかニヤニヤしていた。

 そしてなぜか鞄の中から何か用紙を取り出してきたので俺は素早くその場から逃げ去った。


「あ! まだ渡すものがあるのよ!!」


「契約書は要らん!!」


 危ない危ない、こんな時まで契約書にサインを迫られるところだった。

 俺は学校という関係者以外立ち入ることの出来ない聖域に逃げ込み、呼吸を整える。


「さて、言ってみるか」


 面倒だけど、俺にも責任が無いわけじゃない。

 まぁ、俺の予想が正しければだけど。

 間違っていれば間違っていたで、川宮さんが無事だったと喜んで家に帰ればいい。


「ちょっと」


「ん? なんだよ井宮」


 俺がそんな事を考えながら昇降口で靴を履き替えていると、井宮がなんだかむすっとした表情で俺の前に現れた。


「何してたのよ、掃除の時間にサボって校門の外になんて出て」


「まぁ、色々な。それにサボったわけじゃないぞ、俺は英司に頼んできた」


「笹原君キレてたわよ」


「え? マジ?」


 全く、あいつは俺のテレパシーも読み取れないのか?

 しっかり心の中で掃除をお願いしたつもりだったんだが。

 

「それで何をしてたの?」


「あぁ、ちょっと知り合いにう頼んでいたものを届けてもらったんだ」


「そう……アンタ、まだあのアイドルとマネージャーに付きまとわれてるの?」


「まぁ、そうだな」


「とっとと話しつけて縁を切りなさいよ、良いことなんてないわよ」


「まぁ、そうなんだけど……」


 サインもらっちまったし、それにあのデートは俺にも責任あるし。

 今ここで俺が知らん顔するのは、なんだか面倒臭いとかそう言う話じゃなくて、筋が通らない気がする。

 そう言うの俺は嫌いだし、なんだか嫌だ。

 だから、もし川宮さんが何かトラブルに巻き込まれているのであれば、手助けしなければ人としてダメな気がした。


「なんかさ、面倒だけど筋通そうと思ってな。ま、これが終わったら本格的に縁は切るよ」


「ほ、本当?」


「なんでお前がそんな心配するんだよ?」


「そ、それは……そ、そう! 友達だからに決まってるでしょ!」


「ふむ……なるほど」


 確かに友達が何かよからぬ人物に迷惑を掛けられていると、友人は心配するらしいからな。

 ゲームでも主人公は良く困っている友達を心配している。

 なるほど、そう言うことか。


「心配させて悪いな、まぁでも多分大丈夫だから。今日も夜はゲームしようぜ」


「良いけど、ちゃんとログインしなさいよ」


「わかってるよ」


 俺はそう言って教室に戻って鞄を取りに向かった。

 帰りのホームルームを終え、俺は直ぐに学校を出て一宮学園に向かった。

 学園に向かう途中俺は川宮さんにメッセージを送る。


【校門前にて待つ】


「なんだか味気ないか? まぁいいか」


 俺はそのメッセージを打ち終え、一宮学園の校門前にやって来た。

 裏門にも正門にもガードマンが居ては要れない。

 学校は見る感じだと、今が掃除の時間のようだ。

 

「返信は……なしか」


 気長にここで川宮さんを待つか。

 まぁ、ここで待っていてなんか言われたらこのマネージャーさんの名刺を見せればなんとかなりそうだしな。

 俺がそんな事を考えながら昇降口で川宮さんを待っていると、尋常じゃない数に視線に気が付いた。

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