第89話 俺、帰宅



「ただいま」


「けいちゃんお帰り!! 今日は朝かいなかったけどどこに行ってたの? お姉ちゃん、朝から探し回ってたんだけど?」


「いや、怖いよ……ちょっとね、まぁなんでもいいでしょ」


 俺はそう姉貴に言いながら家の中に入った。

 姉貴には今日デートに言ってきたなんて、口が裂けても言えないからな。


「ねぇねぇ、けいちゃん! 帰ってきたならお姉ちゃんと映画見ない? このR18のブルーレイを一緒に……」


「いや、それAVだろ!! 何が悲しくて姉とAV見なきゃなんねーんだよ!」


「一応けいちゃんの趣味に合わせたんだけど……だめだった?」


「余計ダメだわ!! 俺は疲れたから部屋で休むよ。悪いんだけど放っておいてくれない

?」


「えぇ~折角のお休みなのにぃ~」


「休みでもいつも何もしないでしょ」


 俺は姉貴にそう言い、部屋に入って鍵を締める。

 最近姉の部屋への侵入度があまりに酷いので、最近部屋に鍵を付けたのだが、かなり効果的だったらしい。

 いつも家に帰ると部屋に隠しカメラが仕掛けられていたり、盗聴器が仕掛けられていたりするのだが、今日はそれがなかった。


「むぅ~なんで鍵なんて付けるの? ここは家だよ?」


「家に犯罪者予備軍みたいなのがいるからだよ。って、入って来ないでくれよ」


「良いじゃん、別にお姉ちゃんなんだし~」


「姉貴は俺に何をするかわからねーから、極力二人きりにはなりたくないんだよ」


「まぁまぁ、そう言わずに……ん?」


「な、なんだよ」


 姉貴は途中で言葉を止め、俺の体の匂いを嗅ぎ始めた。

 犬か、うちの姉貴は……。


「……女の子の匂いがする」


「やべ……」


 ヤバイ、今日川宮さんがつけていた香水の匂いだろうか?

 デートして来たのがバレたか?

 いや、バレたなこれ、だって姉貴の顔がすごく暗くなっていくもん。

 ヤバイ……姉貴のマジ闇モードだ。

 こうなると姉貴のご機嫌をとらないとかなり面倒臭いんだよなぁ……。


「けいちゃん? 今日は誰とどこにいたの? 女の子といたの?」


「いや、姉貴……この匂いはそう言うのじゃないんだ!」


「じゃぁ、どういうの?」


 姉貴はそう言いながら、懐からカッターナイフを取り出し、カッターの歯を出して俺にちらつかせてくる。

 てか、なんでカッターナイフを携帯してんだよ!

 我が姉ながらかなり怖いぞ!!

 そう言えば昔親父が言ってたっけ……お袋はかなりのヤキモチ焼きで他の女の子と食事に行った日は拷問を受けたって。

 きっと姉貴はお袋に似たんだな……。

 って、言ってる場合じゃない!!

 

 ストッパーである母さんと父さんは今日も休日なのに仕事だし、このままじゃ俺姉貴に殺されるかも……な、なんとかなんとか姉貴の機嫌を取らないと!!


「姉貴! あれだ、たまには一緒にゲームしよう!」


「え? けいちゃんと? 一晩中? ベッドでゲーム? いやだ、もう何をする気よ~、別に良いけど」


「誰もそんな事言ってねぇだろ、話を盛るな」


「もう仕方ないわねぇ~その為に鍵を付けたのね」


「いや、全然用途は別だった」


 ま、まぁ少し勘違いをしているが、なんとかなって良かった。

 あのままだったら恐らく姉貴は俺を殺して自分も死んでいただろうしな。

 

「じゃぁお姉ちゃん、先にシャワー浴びてくるね」


「いや、勝手に浴びてくれば良いじゃん、なんでそんな意味深な感じで言うんだよ」


 姉貴はそう言って俺の部屋から出て行った。

 流石に姉貴にこの前来たアイドルと映画を見に言ってきたなんて言えないからな。

 まぁ姉貴に関わらず、そんな事誰にも言えないけど。

 なんて事を考えながら着替えをしていると、俺のスマホに電話が掛かって来た。

 限られた人間しか俺のスマホに電話を掛けて来ることは無い。

 なので、電話が来た時点で掛けて来た相手は大体想像が付く。

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