第86話 ストーカー二人



「え? 恋愛映画じゃなくて、ホラー映画見るんだ」


 私は物影から二人を見ながら思わずそんな事を思ってしまった。

 勝手に恋愛映画を見るのだろうと思っていたけど、まさかホラー映画を見るなんて。

 どっちの趣味なんだろう?

 もし圭司君の趣味だったら、私もそれに合わせないとだよね?

 うぅ……でも私怖いのダメなんだよねぇ……あ、でも怖いって言った方が可愛いと思われるのかな?

 私がそんな事を考えていると、二人は発券機の前を後にしどこかに歩き始めた。


「また移動するんだ……映画の上映まではまだ時間あるけど……あ! 私も早くチケット勝手来なくちゃ!!」


 私は2人と同じ映画のチケットを買いに発券機の前にやって来る。

 しかし、同じタイミングで誰かが私と同じ発券機の前に立った。


「あ、ごめんなさい!」


「いえいえ、どうぞ……って高城さん!?」


「い、井宮さん!?」


 まさかこんなところで井宮さんと会うなんて!!


「ど、どうしてここに!?」


 言えない、前橋君を尾行していたなんて死んでも言えない!!

 なんとかごまかさないと!!


「私は映画を見に来たの……井宮さんは?」


「え!? わ、私も映画を見にね……」


 あれ?

 なんか様子が変?

 すごいきょろきょろしてるし、それに井宮さんって映画に一人で来るようなタイプだっけ?

 まぁ、そんなの井宮さんの勝手だけど……。

 というか、井宮さんって前橋君と仲良いし……もしかして……。


「あ、あの……もしかして見る映画ってこのホラー映画?」


「え!? あ、あぁ……そ、そうよ! そろそろ夏だし、こういうの見たいなって……」


 あ、これ絶対嘘だ。

 だって、目がすごく泳いでるもん!

 なんかクロールとかしそうな勢いだもん!

 宿泊学習の時から少し怪しいとは思ってたけど……もしかして井宮さんも英司君の事を?

 そ、そんな事になったら私に勝ち目なんてないのにぃ~。

 

「あ、あの……」


「え? な、なに?」


「もしかしてだけど……あの二人の尾行とかしてる?」


「え?」





「い、井宮さん!?」


 私は今、非常に困っていた。

 二人の尾行をしている途中、まさかクラスメイトの女の子に会ってしまうなんて思いもしなかった。

 しかもその相手が今尾行している前橋に好意を抱いている高城さんだなんて……。

 

「ど、どうしてここに?」


 咄嗟にそんな事を言ってしまったが、映画館に居る理由なんて映画を見る意外にあるわけがない。


「え!? わ、私も映画を見にね……井宮さんは?」


 そりゃそうよね……まさか尾行しに来てるのなんて私くらいよね?

 

 「え!? わ、私も映画を見にね……」


 なるべく自然な感じで言ったけど、私の様子変じゃないわよね?

 てか、まさか高城さんと会うなんて……あいつがデート中って知ったらどんな顔……ってもしかして……高城さんも尾行中?

 いやいや流石にそれはないでしょう~。

 だって、いくら好きな男子が他の女とデートだからって尾行する女子なんて……居たわ……ここに一人いるわ……。


「あ、あの……もしかして見る映画ってこのホラー映画?」


 ヤバイ!!

 なんか感づかれてる気がする!!


「え!? あ、あぁ……そ、そうよ! そろそろ夏だし、こういうの見たいなって……」


 うぅ……こうなったら私から先手を打って彼女に聞いてみようかしら?

 その方がなんか優位に立てそう。

 てか、ストーキングの優位性っている?


「あ、あの……」


「え? な、なに?」


「もしかしてだけど……あの二人の尾行とかしてる?」


「え?」


 そう尋ねると高城は顔を真っ赤にして焦り始めた。


「え? いや、あの……ちが……くて……」


「あ、いや……別に責めてるわけじゃないんだけど……その……気になるわよね? 好きな人が他の女とデートしてると……」


「う…うん……」


 高城さんはそう言いながら顔を真っ赤に染めていた。

 なんか、私も同じことをしてるのに上から目線なのは良くないわよね……。

 可哀想だし、私も本当の事を打ち明けようかしら?

 いや、でもそれを言ったら私もあいつが好きな事バレるし……応援するって言った手前、それはなんか裏切ってる感じがするし……。

 私がそんな事を考えていると、今度は高城さんが私に尋ねてきた。


「い、井宮さんもだよね?」


「え? な、なにが?」


「前橋君のストーキング……」


 あ、これ……全部バレてるやつだ……。

 その後私たちは二人でチケットを買った。




「いやぁ~楽しみだなぁ~」


「それは良かったですね」


 上映開始15分前、俺たちは指定の座席に着席し、上映開始を待っていた。

 俺たちはそれぞれ飲み物とポップコーンを買い映画が始まるのを待った。


「私、映画館なんて一年ぶりかも」


「そうなんですか?」


「えぇ、舞台挨拶とかで壇上に上がることはあったけどこうして座席で見るのは久しぶりね」


「流石はアイドルですね」


「まぁね……でもやっぱりこうして誰かと映画を見に来るのって良いわね」


「え?」

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