第85話 アイドルとデート
✱
「手、小さいですね」
「え? 何? もしかしてドキドキとかしてる?」
「いえ、全然」
「普通アイドルの手なんか握れないのよ? 握るためにお金を払う人も居るんだから」
「俺はそういう人種じゃないので」
俺と宮河さんは手を繋ぎながら映画館に向かった。
女子と手を繋いで歩くというのは恥ずかしいものだ。
周りからどう思われているのかとか、色々と考えてしまう。
「それでどうですか? 手を繋いでデートしている感想は?」
「そうねぇ……なんか恥ずかしいわね」
「そりゃあそうでしょうよ」
「あと、男の子の手って結構硬いのね、それに大きい……」
「その言い方、他の人の前ではしないでくださいね。誤解を招きそうだ」
あの有名アイドル宮河真奈が歩いているというのに、誰もその存在に気が付かない。
まぁ、化粧や小物によって別人のように変装しているから気が付かないのも無理は無いが、ここまで気づかれないものとは思わなかった。
「あ、良く聞くんだけど。彼氏は彼女の着てきた服を褒めるんでしょ? どう? 今日の私の服は?」
「え? あぁ、良いんじゃないっすか」
「なんか雑……」
「そう言われても俺、女子に服の良し悪しなんてわからないっすもん」
「もう! じゃぁ可愛いかどうかで教えて!」
「あぁ……可愛いっす」
「もっと気持ちを込めてよ! 彼氏でしょ!」
「役ですけどね」
うーむ、彼氏役と言うだけでこんなに面倒くさいのだ。
本当の彼氏になんてなったらもっと面倒くさいのだろうか?
やっぱり俺は彼女とかいらねーな。
映画館についた俺たちは券売機の前に並びながら、今日見る映画の話をしていた。
「それで今日は何を見るんですか?」
「『幽霊屋敷の動き出す先住民達』よ! 私ホラー映画大好きなの!!」
「へー……まぁ何でも良いっすけど」
「もう、少しは楽しそうにしてよ」
「いや、そう言われても……報酬を貰ってそれできてるので、なんかバイト感覚というか……」
「要するにどういうこと?」
「面倒なので早く帰りたいです」
「しょ、正直ねぇ……」
サインのためじゃなければ俺は絶対にこんな面倒なことはしない。
世間の男たちはなんで女性とデートをしたがるのだろうか?
デート代を奢ったり、彼女の機嫌を取ったり、色々大変なのになんであんなウキウキして準備をするのだろうか?
うーむ……わからん。
「てか、デートなのにホラー映画でいいんすか?」
「え? どうして?」
「こういうデートのときって大抵恋愛映画とかを見るもんなんじゃないですか? まぁ、俺も良く知りませんけど」
「あ、確かに……言われて見れば」
昨日やったギャルゲーでは恋愛映画とホラー映画で選択肢があって、ホラー映画を選んだら、なぜか彼女がヤンデレ化してバッドエンドになったけ……。
「うーん……そ、そうよね……これは役に入るための特訓だし!! 恋愛映画にしましょう!!」
「それで良いならいいですけど……」
ホラー映画見たかったのかな?
ちょっと余計なことを言っちまったかな?
アイドルって売れっ子になればなるほど忙しいって言うし……映画なんてそうそう見に来れないんじゃないだろうか?
それなのに見たくも無い映画を見せるのはなんか可愛そうな気もするし……てか、こういう場合の彼氏は彼女のみたい映画を尊重するもんじゃないか?
はぁ……面倒だけど、俺が言った余計な一言が原因だしな……。
「あ、俺その映画はちょっと見たくないっす、吐きます」
「え! なんで!?」
「いや、出てる女優がぶりっ子っぽくて嫌いです、視界に入れた瞬間吐き気がします」
「どんな拒絶反応!?」
「それなら、まださっき言ってたホラー映画の方が良いです」
「え? でも、恋愛映画じゃないと恋人っぽくない……」
「前のカップルだって二人でアニメ映画を見に行くみたいですよ。別になんでも良いでしょ、映画なんて」
俺はそう言いながら発券機を操作し、先程宮河さんが見たいと言っていた映画のチケットを発行する。
「それに見たいんですよね?」
「……し、仕方ないわねぇ〜拒絶反応が出ちゃうなら、こっちの映画にしておきましょうか? あくまで仕方無くだからね!!」
宮川さんは笑顔でそう言い、俺の手から映画のチケットを受け取った。
わかりやすい人だなぁ……。
まぁ、ホラー映画なんて全部作りものだし、そこまで怖い映画じゃないだろう。
あんまり見たこと無いけど大丈夫だろう。
「上映までまだ少し時間ありますね」
「じゃぁ、飲み物買ってトイレにも言っておきましょう!」
めっちゃ楽しみじゃん……万全の体制で映画を鑑賞しようとしてるじゃん。
あの人、このデートがカップルの気持ちを理解するためのものって忘れてないよな?
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