第82話 連絡先なんて交換しなきゃよかった



 放課後、俺は高城から呼び出しを受けた。

 

「どうしたんだ高城? こんなところに呼び出して」


 あの宿泊学習の一件から高城とは友人になったが、これまでとあまり変わったことはない。

 強いていうなら、今日こうして呼び出されたことが変わったことだろうか?


「あ、あのね……私この前見ちゃったんだけど……」


「え? 何をだ?」


「あ、あの……アイドルの宮河真菜と一緒にいたよね? 先週の帰り道に呼び止められて……ど、どういう関係なのかなって……」


 え!?

 な、なんで高城がそのことを知っているんだ!?

 まさか、俺が宮河さんに連れて行かれたところを見られていたのか!?

 くそっ!

 人通りの少ない道だから油断していた!


「あ、いや……それは……」


 どうする?

 宮河さんとの関係は内緒だし、どう誤魔化す?


「み、見間違いじゃないか?」


「絶対に圭司君だったよ! 私昔から見てるから見間違えないよ!」


「そ、そうなのか?」


 どんだけ俺を凝視してるんだ……。

 しかし、これだと見間違いだと言って押し通すのは無理そうだ。

 ここは正直に言って、口止めをするのが一番良いか?

 高城は誰かに秘密を話すようなやつじゃないし、多分黙ってくれてるとは思うが……。

 ていうか、俺はまだ高城を昔のようにぶーちゃんとして認識出来ていないな……同一人物ってことは証明されてるのに、未だに脳が処理しきれていない。

 ぶーちゃん、もとい高城が秘密を漏らす訳はない。

 俺はそう思い、高城に何があったかを説明することにした。


「実はな……」


「うん」


「アイドルに脅迫されたんだ」


「え?」


「付き合わないとサインはやらないって……だから俺は仕方なく、宮河真菜に付き合うことになってしまったんだ」


「え? え? あ、あの……」


「まぁ、そんな感じなんだ、わかったか?」


「ご、ごめん全然わからない。っていうかあんまりわかりたくないかも……」


 あれ?

 俺の説明の仕方が悪かったか?

 仕方ないもう一度説明しよう。


「すまん、じゃぁもう一度説明しよう」


「う、うん……」


「マネージャーと宮河さんから脅迫され、家に乗り込まれ、色々あって俺は宮河さんの彼氏役をすることになってしまった」


「ごめん、更にわからなくなったわ」


 そこから俺は何があったかを再度順を追って説明した。


「な、なるほど……最初は撮影に協力して、そこでスカウトされたんだ……すごいね」


「いや、正直俺は興味無かったからな……正直良い迷惑だよ」


「それで今度は宮河さんからカップル役を演じるための練習相手に選ばれたんだ……」


「不本意だがな……あ、このことはくれぐれも内緒で頼むぞ、バレるといろいろ面倒だから」


「う、うんわかった……でも、本当にやるの? 彼氏役なんて……」


 高城はそう言いながらなぜか頬を膨らませた。


「あぁ、もうサインは貰っちまったし、約束だしな」


 面倒臭いがサインを受け取ってしまったので仕方ない。

 

「………ふーん」


 なんだ?

 なんか高城少し不機嫌じゃないか?

 俺、何か問題のあることでも言ったか?

 

「ち、ちなみにデートとかするの?」


「まぁ、練習だからなデートもするだろうな」


「………そ、そうなんだ……ね、ねぇ圭司君!」


「ん? なんだ?」


「あのさ、今度二人で買い物に行かない? その……昔みたいに一緒にさ……」


「あぁ、俺は全然良いけど高城は良いのか? 俺と二人ででかけたりしてるのをクラスの他の奴らに見られたら、誤解されちまうかもしれないぞ」


 俺みたいな不細工とデートしてるなんてバレたら、高城は男の趣味の悪い奴だと思われてしまうかもしれないしな。


「私はそういうのは気にしないよ。そ、それに……久しぶりに一緒に遊びたいなって……」


「あぁ……まぁ……確かに」


 思いがけず一緒の学校で再会出来た昔の好きな人だ。

 俺だって昔のように仲良くしたい。

 しかし、俺はまだ高城ぶーちゃんとして認識出来ていない。

 昔の感覚を取り戻すためにも、二人で遊びに行くのは確かに良いかもしれない。

 だけど……あぁ……休みの日のゲーム時間が削られちまうなぁ……。


「じゃ、じゃぁ後でメッセージで空いてる日を教えるから、予定合わせて一緒に出かけよ!」


「お、おう……わかった」


「えへへ……よかった……」


 まぁでも高城の機嫌が治ったようでよかった。

 そんなに荷物持ちが見つかって嬉しいのだろうか?

 

「あ、ごめん! じゃぁ私これから用事あるから先に行くね! バイバイ!!」


「あぁ……」


 高城はそう言って俺の前から姿を消した。

 まさか高城に遊びに誘われるとはな……男女が二人で出かける……これは……デートではないか?

 俺がそんなことを考えていると、今度はめったにならない俺のスマホが元気よく音を鳴らして震えた。

 

「げっ……マジかよ」


 俺はスマホを取り出して画面を見る、するとそこには【宮河真菜】の名前があった。

 連絡先なんて交換しなきゃよかった……。

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