第81話 とりあえず彼女に相談しよう



「そんな訳でな、どうしたら良いと思う?」


『まって、話が急すぎて全く理解出来ないんだけど』


 夜、俺は電話で井宮に宮河さんの名前を伏せて現在俺がおかれている状況を説明した。

 

『あんた、サイン色紙と生写真でそんなお願いを引き受けたの!?』


「あぁ、欲しかったから」


『いや、欲しかったからじゃないでしょ!! どうするのよ!?』


「どうって……まぁ、恋人役をするしかないよな?」


『だから、それがアンタに出来るのかって聞いてんのよ!』


「出来ない。まず女子と付き合ったことも無い」


『それで良く引き受けたわね……てかアンタ、彼女とか面倒って言ってたじゃない!』


「だが、サインは欲しかった」


『威張るな馬鹿』


「というわけで俺はどうしたらいい?」


『サイン返して彼氏役断れば良いと思うけど』


「それは嫌だ」


『はぁ……じゃぁ彼氏役をうまくして来なさいよ』


「そもそも彼氏ってなんだ?」


『そこから?』


「あぁ、俺もまずそこからだと思って考えてみたんだ? 彼氏とはなんだろうと、女性と付き合っている男性のことか? それとも女性が好きな男性のことか?」


『そんな哲学みたいな考えなの? 単純にカップルのうちの男性を指す言葉じゃない?』


「だが、彼氏というのはそんなに簡単なものなのだろうか? 将来的にはもしかしたら結婚するかもしれない男性なんだぞ? もっと重たい意味が籠もっているはずだ!」


『アンタは彼氏の何を知りたいのよ……』


 俺は話をしながら、ゲームの中でドラゴンを倒す。

 井宮のゲームキャラが俺を援護し、俺はドラゴンのHPをどんどん削っていく。


「一つ聞きたいんだが」


『何よ』


「彼氏になったら、付き合って何日目で彼女のおっぱいを触って良いんだ?」


『最低』


「え!? い、いや大事なことだろう!! 早すぎると嫌われるんじゃないのか?」


『はぁ……女子に興味無いフリして、アンタも馬鹿な男達と変わらないのね』


「なんだと!! 付き合うんだから、そういうことにもなるだろ!?」


『そうだけど、まず女子と付き合う=おっぱい揉めるってことじゃないから』


「そ、そうなのか!?」


『そうよ! アンタ彼女をなんだと思ってるのよ!』


「え? おっぱい揉ませてくれる女」


『アンタのその片寄った考えは何よ……』


 そんな話をしているうちに井宮がドラゴンにトドメを指す。

 クエストクリアの画面になり、俺はそこでコントローラーから手を離す。


「なるほど、揉むのはだめか……」


『まぁ、お互い同意の上なら良いけど、あんまり触りすぎるのはだめよ。あと人にもよるけど……』


「やっぱりお前も嫌なのか?」


『ふぇ!? あ、それは……まぁ……恥ずかしいし』


「まぁそうか……やっぱり触るのはやる時だけなのか……」


 俺がそう聞いた瞬間、井宮のアバターが突然土下座のコマンドを実行し始めた。

 どうしたんだろうか?

 誤操作か?


『てかアンタ、その子本当に大丈夫なのか?』


「何がだ?」


『なんか騙されて変なマルチ商法とかの勧誘受けてるわけじゃないわよね?』


「何を馬鹿なことを……俺がそんな方法に引っ掛かるわけないだろ?」


『まぁ、それなら良いけど……やっぱりやめた方が良いんじゃない? どうせアンタなんて緊張してデートなんて出来ないわよ』


「うーん、まぁでも報酬を貰ってるしなぁ……まぁ少しくらいは付き合ってやらないと」


『いつもは面倒って言うくせに……』


「ん? なんか言ったか?」


『何でも無いわよ、それよりクエストもう一回ね、武器ドロップさせるんだから』


「へいへい」


 俺は井宮にそう言いながらクエストの受注のボタンを押す。





『それじゃぁ、おやすみ』


「おやすみ」


 私は彼との日課を終え、通話を切りベッドに横になった。

 今日は彼の話が気になってあまり集中出来ず、そこまでクエストを回ることが出来なかった。


「何よ……彼氏役って……」


 あの馬鹿の話だと、何でも最近知りあった女の子から彼氏役をして欲しいと言われたらしい。

 友達すら面倒だと言っていたあいつが、彼女なんてそれこそ面倒なのではないだろうか?

 そう思った私だったが、どうやら大好きな声優のサイン色紙に釣られたらしい。

 

「男って単純……」


 若干呆れながらも私の心の中にはモヤモヤした物があった。

 何が彼氏役よ!

 私の気持ちも知らないで!!

 最近はアイドルと密会してるなんて噂も流れてるし………それだけでも結構気になってたっていうのに。

 ん?

 待って……もしかしてだけど……その知り合いの女の子ってそのアイドルの子じゃないわよね?

 

「優華茜のサイン色紙なんて持ってる普通の女の子なんて居るのかしら?」


 私は冷静に先程の彼の話を思い出す。

 最近知り合った女の子で大人気声優のサインをネタに彼氏役を頼んできた。


「もしかして……」


 私はなんだか嫌な予感がした。


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