第77話 男もしつこいけど女も大概しつこい

「え? あ、あの……貴方達ってそういう関係?」


「断じて違う」


「毎晩一緒に寝る関係よ」


「そんな事実は無い」


 俺はそんなことを言いながらため息を吐く。

 人前でそういうことを言うのはやめて欲しい。


「お風呂だって一緒よ」


「え……」


「そんな事実は無い」


 姉貴の言葉に宮河さんは俺に冷たい視線を向ける。

 いや、そんな顔で見ないでくれ、姉貴の嘘だから!!


「ま、まさか美男美女の姉弟にそんな秘密が……近親相姦……」


「おい、今なんつった」


「ま、まぁ……愛形は色々だから……それに好きな人も人それぞれだし……」


「そう思ってるんだったら俺と目を合わせて貰っていいですか?」


 完全に軽蔑視点じゃねぇかよ、この人気アイドル。


「あの、一応もう一回言いますけど、無いですからね」


「何を言ってるのけいちゃん! 私のパンツをこの前まじまじ見てたじゃない!!」


「姉貴が俺の部屋にわざと置いていくから姉貴の部屋に戻しただけだ!!」


「一緒に寝る時だってあるじゃない!」


「姉貴が俺の部屋に侵入してくるんだろうが!!」


 だめだ、この姉をここにいさせたら話が一向に進まない。

 なんとかしなくちゃ。

 

「姉貴、邪魔だから部屋にでも言っててくれ、話が進まん」


「なんでよ? けんちゃんはスカウト受けないんでしょ? それならこれで話は終わりじゃない」


 まぁ、確かにそうなのだが、姉貴のせいで余計な方向に話がそれてしまったからな。

 姉貴がそう言うと、先程まで冷めた表情だった宮河さんが急に立ち上がった。


「いえ、まだ終わりじゃありません! 弟さんは事務所に入って活動をするべきです! お姉さんも弟さんの顔はわかってますよね?」


「えぇ、わかっているわ。でも弟が嫌がっているのに、それを無理やりやらせるなんて私はしない」


「姉貴……」


「まぁ、無理やりけいちゃんからされるのは興奮するけど……はぁ……はぁ……」


「もうマジで出てけ!!」


 俺はそう言って姉貴をリビングから無理やり追い出した。


「はぁ……はぁ……」


「あ、貴方のお姉さんって……変わってるのね」


「そうだよ……」


「それで、貴方は本当にうちに来る気はないの?」


「さっきも言ったとおりだ、俺はそういう業界に興味はない。わかったらお茶飲んで帰ってくれ、俺は今から部屋に引きこもる」


「性格が残念ねぇ……」


「顔は抜群なんですけどね……」


 誰が面白い顔だこら。

 まぁ、流石にこれで帰るだろう。

 俺の親に話をして丸めこもうという魂胆だったんだろうが、甘かったな。

 うちの両親は共働きで休日も家にはあんまり帰ってこねぇんだよ。

 

「そう……仕方ないわ、貴方のお姉さんの言うとおり嫌がる人を無理やり事務所に入れるのはだめよね」


 それはもっと早くに気がついてほしかった。

 まぁ、でもわかってくれれば良いや。


「わかって貰えたなら良いですよ」


「そうよね……諦めるわ」


「マネージャー!? 良いんですか? こんな簡単にあきらめて!!」


「本人がここまで嫌がってるなら仕方ないわ。私達の負けよ」


 おぉ、マネージャーさんはわかってくれたぞ。

 やっぱり腐っても大人だ、わかってくれたようだ。


「貴方のことは諦めるし、もう私達は貴方に干渉しないわ。でも、ごめんなさい、これにサインだけ貰っていいかしら?」


「え? なんですか?」


「一応、貴方はアイドルの宮河真菜と何回も接触しているのよ。貴方を疑っているわけじゃないんだけど、これは真菜の写真や動画をSNSやネットに絶対に上げないっていう誓約書よ」


「あぁ、なるほど」


「まぁ、貴方がそんな写真や動画を撮影しているとは思えないんだけど、一応ね」


「それくらい全然言いですよ」


 まぁ、これくらいは仕方ないだろう。

 事務所にも都合と言うものがあるだろうし。

 俺は用紙をマネージャーさんから受け取り、サインを書こうとする。

 しかし、俺は違和感に気がついた。

 文章の一番下に小さく何か書かれていた。

 結構重要な書類なのになんで小さく文字が書いてあるんだ?

 俺は違和感を覚え、その小さく書かれた文章を目を凝らして読む。


【上記内容を承諾した場合、契約者は当社との専属契約を結ぶものとする】


「おい」


「何かしら。 さぁ早くサインかハンコを押すのよ!!」


「全然諦めてねぇじぇねぇか!! 悪徳詐欺商法みたいなことをしやがって!!」


「良いから黙ってハンコを押しなさい!!」


「あぁぁくそ! 離せ!!」


 マネージャーさんはそう言いながら俺の右手に握られたハンコを用紙に押し付けようとする。

 さっきまでのあの話の内容はどこにいったんだよ!!


「ま、マネージャー流石にそれはやりすぎですよ!」


「えぇい! こうでもしないとこの子はうちに来ないわ!」


 もうなんか怖いよ、このマネージャーさん……。

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