第76話 奴らが来た

「いや、頑張るとかマジ嫌だ」


「ダメ人間じゃないのよ!」


「考えても見ろ? 学生のうちから働いて何になる? 子供のうちしか遊べないんだぞ?」


「貴方は大人になっても遊んでそうよ!」


 うむ、やはり俺のなりたい職業については理解して貰えないか。

 まぁでもそういう人間が居るということはわかっただろうし、これで諦めるだろう。


「んじゃ、俺はこれで」


「まって、貴方は働いた方が良いわ、このままじゃだめ人間になるわよ!」


「それでも構わない!」


「構いなさいよ!」


 何このアイドル、めっちゃ怒るじゃん……てか放っておいてくれよ。

 俺は人に関わるのも関わられるも嫌いなんだよ。


「まぁ、そういうことでさようなら」


「あ、待って!」


 俺は宮河さんの話を無視していつもどおり自宅に帰る。

 まじでいい加減にしてくれないかな……。

 最初は直ぐに諦めるかと思ったが、気がつけばもう一週間だ。

 まぁ、明日は休みだし、流石に休みの日までスカウトには来ないだろう。

 そもそもあの二人は俺の家を知らないし。

 なんてことを考えていた俺だったのだが、翌朝一階のリビングに降りていくと、そこには悪魔が二人俺のことを待ち伏せていた。


「あら、圭司君おはよう偶然ね」


「お、お邪魔してます」


「何が偶然だコラ」


 マネージャーさんと宮河さんがまさかウチまでやってくるなんて予想出来なかった。

 てか、どうやって俺の家の場所知ったんだ?


「この一週間貴方をつけたかい……じゃなかった、観察したかいがあったわ」


「それってストーキングですよね? まじで警察に通報すんぞコラ。大体、今日は母さんも父さんもいないはずなのに、なんで家に上がって来てるんですか?」


「貴方のお姉さんが玄関の戸を開けてくれたわ」


「姉貴のやろう……」


 どおりで今朝は朝俺を起こしに来ないと思った。

 まぁ、起こしに来られのるも嫌なんだけど。


「驚いたわ、貴方のお姉さんって前橋知与さんだったのね。兄弟揃って美形なんて……これは是非とも姉弟揃ってうちに来て欲しいわね」


「絶対に嫌ですよ」


 てか、うちの姉貴が良くこの二人を家に入れたな。

 いつもなら俺がクラスの女子の名前をだすだけで、その女子を呪い殺そうとする姉が、俺を訪ねてきた女性を家に入れるなんて。

 

「あら圭司おはよう。お客さんよ」


「え? あ、あぁ……うん」


 姉貴は台所でお茶を入れていた。

 恐らく二人に出すお茶だろうけど。

 なんでこんな姉貴落ち着いてるんだ?

 いつもならブラコン全開で俺に抱きついて来たりするのに……。


「ありがとうございます。では改めて、ウチの事務所に入ってくれない? 前橋圭司君」


「嫌です」


「オッケー、じゃぁこれが契約書ね」


「人の話し聞いてました?」


 だめだこの悪徳マネージャー、人の話を聞く気がない。

 

「なんでよ! お姉さんがモデルなら、弟の君もモデルになりたいとか思わないの?」


「生憎と姉と自分は違いますので、それに前から言ってる通り俺はその世界に興味がありません。本当にいい加減にしないと、通報しますよ」


 姉がモデルだからって、別に俺もそういう世界に行きたいわけじゃない。

 それに他人から評価されて仕事をするってのは、俺には多分合わない。


「そ、そう言わずに考えて見てよ! お金だってもらえるし、上手くいけば売れっ子になれるよ! それにニートはだめだと思う!!」


「ニートの何がいけないんだ!!」


「全部だよ!!」


 俺が二人と話をしていると、姉貴が紅茶を持って俺たちにところにやってきた。


「まぁまぁ、圭司少し落ち着きなさい」


「でも姉貴、俺は芸能界なんて興味無いぞ」


「それでもこの二人はお客さんよ、言葉遣いには気をつけなさい」


 少し怒ったようなこの口調……姉貴の姉モードだな。

 うちは両親が共働きで家を開けることが多かった。

 そのため、俺は姉に生活で必要なしつけを学んだ。

 まぁ、挨拶をきちんとするとか年上には敬意示すとかそんな感じだけど、そういうのがきちんと出来ていないとき、姉貴は俺を真面目に怒るのだ。

 あのブラコンモードからは考えられないけど。


「マネージャーさん、申し訳ないのですが弟もこう言っています。お引き取りください」


「なんでですか! お姉さんだってわかってるでしょ? 彼はきっといずれ国民的なスターになれる!!」


 誰が国民全員を笑わせられる顔だ!

 余計なお世話じゃ!


「確かにそうでしょうね、私の弟ですから本気を出せば直ぐに売れると思います。でも本人がやりたくないと言っているんです。ここは本人の意思を尊重すべきでは?」


 姉貴、意外とまともなことを……。

 なんだかんだ言って俺の気持ちをわかってくれてんだなぁ。

 俺、なんか少し感動。


「それに、けいちゃんがアイドルなんかになったらお姉ちゃんと毎晩イチャイチャする時間がなくなっちゃうでしょ?」


「え?」


「え?」


「おい」


 場の空気が一瞬にして凍りつくのを感じた。

 何とんでもねぇことを言ってんだ、このバカ姉。 

 てか、いつイチャイチャした!

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