第75話 俺のなりたい職業
『てか、その感じだとまらスカウトに来るんじゃないの?』
「いや、あれだけ拒否ったし、もう大丈夫だろう」
『だって、わざわざ学校まで来て現役のアイドルを餌にするくらいよ?』
「あぁ……言われて見れば」
『気をつけなさいよ、今度は何をされるかわからないわよ』
「いや、でも流石に手荒なことはしないだろ?」
流石に警察沙汰になるようなことはあっちもしたくないだろうし、そこまでして俺が欲しいとも思わないだろう。
「てか、何か対策考えるのとか面倒だし、諦めてくれるまで待つだけだな」
『まぁ、あんたらしいっちゃあんたらしいわね。気をつけなさいよ』
「はいはい、それよりももう一回周回しようぜ、俺まだドロップしてないんだよ」
『はいはい、付き合うわよ』
どうせ直ぐに諦めるだろう。
俺はそんなことを思いながら、あのマネージャーとアイドル宮河真菜を放置した。
しかし、この時の俺はまだ気がついていなかった。
この二人に対して何も対策をしなかったことを後の俺が激しく後悔することを……。
✱
「見つけたわよ! さぁ今日こそ契約書にサインしなさい!!」
「お、お願いします!」
「嫌です、じゃ」
「あ、コラ待ちなさい!!」
あれから来る日も来る日もマネージャーと宮河さんは俺を学校前で待ち伏せた。
しかし、俺はそのたびに二人の脇を素通りした。
それは雨の日も……。
「さぁ! サインしなさい!!」
「ずぶ濡れですが……」
風の強い日も……。
「あ、あの! サインしてください! お願いしますってあぁぁ! 契約書ぉ〜」
「……あの子、少し馬鹿なのかな?」
そして台風の日も……。
「きゃぁぁぁ!! 飛ばされるぅぅ!!」
「マネージャー!! あ、あの助けてもらえませんか? 台風で身動きが!!」
「お前ら一体何しにきてんだよ!!」
そんな感じでとにかくしつこく俺を勧誘し、彼女たちは諦めなかった。
まぁ、後半はスカウトと言うか俺の前に現れて助けを求めていただけだけど……。
「はぁ……はぁ……今日こそこの契約書にサインを押して貰うわよ!」
「必死すぎないか?」
「うるさいわね! あんたがサインしないからでしょ!」
そんな重要そうな書類に簡単にサインなんて出来ねぇっての……。
放課後、あの生放送から一週間、この二人はずっと俺のスカウトを続けていた。
人気アイドルが一体何をしているんだ?
てか、本当にこいつ売れてるのか?
暇なんじゃないのか?
「あ、あの……考えは変わらないかな?」
「変わんね〜よ、俺はおもしろ顔芸人にはならない!」
「いや、誰も芸人になれなんて言ってないんだけど……」
はぁ、こんなことならもっと早くに対策をしておくんだったな。
この前は高城にも二人との関係を聞かれたし、学校では俺が人気アイドル宮河真菜と密会してるなんて噂が流れて困っているのだ。
「はぁ……あの、いい加減にしてもらえませんか? 結構迷惑なんですけど」
「そ、そんなのわかってるわ……でも貴方はなんとしてもうちの事務所がいただくのよ!!」
「わかってるなら、この方法が逆効果だってことに気がついてもらえませんかね……」
はぁ、今日もこの二人のせいで帰るのが遅れる。
そろそろ諦めてくれねぇかな?
「ぎゃ、逆になんで嫌なんですか? 芸能人なんてなりたくてなれるものじゃないのに」
「いや、だから俺は目立ちたくないんだよ」
しかも芸人になんてなったら、プライベートも知らない誰かからいじられそうだし、そんな職業誰が好き好んでやるもんか。
「で、でも貴方は恵まれてるんですよ! この世界、なりたくてもこの職に付けない人がいっぱいいるんです!」
「……じゃぁなんだ? あんたは俺の顔が恵まれてるから、その職につけと俺に命令するのか?」
「い、いや……私は……そんな言い方をしたいわけじゃ……」
「じゃぁ逆に聞くが、適正があるからって言って、そいつの意思を無視してその職業に無理やりそいつをつかせて、そいつは幸せなのか?」
「それは……」
「あんたは顔が良くて、アイドルになりたくてその道を選んだのかもしんねー。確かになりたくてなれる職業でもないだろう、向いてる奴に向いていると言いたくなるのもわかる。でもなぁ、人にはそれぞれ夢とかなりたい職業があるんだよ、それを無視して、勝手なことを言うんじゃねぇ!」
「あ………う……」
まずい、若干口調が強くなってしまった。
それになんかこの子泣きそうだぞ……流石に言い過ぎたな。
「じゃ、じゃぁ貴方は一体何になりたいっていうのよ!」
「俺のなりたいもの……」
そんなの決まってる。
俺の夢、俺のなりたい職業………それは!!
「ニートだ!!」
「は……」
「に、にー……と?」
決まった。
これでこいつらも諦めるだろう。
そう俺は思っていたのだが……。
「あれだけ言って、貴方のなりたい職業がニート!? 馬鹿にしてるんですか!」
めっちゃ怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます