第73話 女性は色々な顔を持っている

 あいつ俺を見捨てやがった!!

 どうする?

 警察か?

 嫌でも子供みたいだし、通報するのは違うか?

 じゃぁどうする?

 俺がそんなことを色々考えていると、女の子は若干サングラスをずらして俺にこういった。


「あ、あの付いて来て貰えますか? 悪いようにはしませんから」


「え? あ……確かあんた……」

 

 ちらっと見えたその顔は昨日俺がぶつかったアイドルの宮河真菜だった。

 なんで彼女が俺を訪ねて学校まできたんだ?

 俺は不思議に思いながら彼女の言うとおり、彼女に腕を引っ張られ後についていった。

 

「ごめんなさい、私は顔がバレると人が集まってくるので、こんな格好でしか出歩けなくて」


「それは良いんだけど、一体俺に何の用? 一体どこに連れて行くの?」


「あぁ、心配しなくても怪しいところには連れて行きませんよ? それに昨日はありがとうございました。あなたのおかげで生放送は無事に終わりました!」


「俺、別に何もしてないんだけど」


 俺は宮河さんに手を引かれながら、見覚えのある車の元にやってきた。

 その車は昨日俺を送ってくれた、宮河さんのマネージャーの車だった。


「まさか……あのマネージャーさんも来てるの?」


「はい、なんか貴方のことを気に入ったみたいで、本格的にスカウトのお話を……て! なんで逃げようとしているんですか!!」


 俺はあのマネージャーの存在を知り、彼女の手を振り解いてその場から逃げ出そうとした。

 しかし、彼女は再び俺を捕まえた。


「離せ! 俺は絶対に芸人なんかにならない!!」


「な、何でですか!? 滅多にないことですし、それに貴方なら売れっ子になれます! てか芸人!?」


「うるせぇ! 誰がテレビに写っただけで面白い顔だ!」


「誰もそんなこと行ってませんよ!?」


「俺は目立つのが嫌いなんだよ! だから絶対にヤダ!! なんであのマネージャーさんが俺にあんなしつこく言ってきたのか全然わからねーけど、絶対に俺は嫌だ!!」


「お、お話だけでもお願いします! 私も貴方にこの世界は合っている気がします!」


「誰が顔面おもしろマシーンだ!」


「だから言ってませんって!!」


 通り道でそんな引っ張り合いをしていると、車の中からその様子が見えたのか昨日のマネージャーさんが降りてきた。


「久しぶりね、ボウヤ」


「いや、全然久しぶりじゃねぇし……あの、まじでやめてもらえます? 俺はそっちの業界には一切興味無いので」


「相変わらずみたいね、でもここまでノコノコ付いてきたのは話掛けてきたのが真菜だったからでしょ? やっぱり貴方も男の子ってことね」


「いえ、怪しすぎて怖くて逃げられなかっただけです」


「え!?」


 そう俺が言うと、宮河さんは驚きながら自分の格好を確認していた。


「うふふ強がっても無駄よ? 貴方も真菜みたいな巨乳ちゃんが大好きなんでしょ!」


「いえ別に」


「あれぇ!?」


「てか、俺はまず女性にあまり興味がないっすね」


 まぁ自分がモテないってことを知ってるし、それに女子って生き物は見た目以上に中身が重要な生き物だってことを俺は知ってるしな。


「つ、強がっても無駄よ! 貴方がもしウチの事務所に来てくれたら、真菜と友達になれるのよ!」


「嫌ですね」


「え!? わ、私嫌われてる?」


「い、良いの? こんな可愛い子にそんなこと言って!」


「俺は別に彼女に興味ないんで」


「ドライ! すごくドライね貴方!!」


「きょ……興味無い……」


 俺がそう言うと宮河さんは暗い顔でうつむいてしまった。

 いや、だって興味ないし。

 別に俺は冷たいわけじゃなくて本当のことを言っただけだし。


「貴方そんなこと言って、本当は強がってるだけじゃないの?」


「え?」


「良い? この子と同じ事務所に居る子は可愛い女の子ばかり! 男の子も居るけど、数はそこまで多くないの! だからこれはチャンスなのよこれは! 今なら真菜と仲良くなって、時間を掛けて関係を進展させてゆくゆくは恋人とか!!」


「あぁ、絶対に嫌ですね」


「はぅ!?」


「ま、真菜!!」


 いや、アイドルの彼女とか絶対嫌でしょ?

 そんなのファンから殺されかねないし、日常生活に絶対支障をきたす。

 それに大前提として彼女という存在が俺にとっては面倒くさい。


「あなた! 真菜がショックを受けちゃったじゃない! ちゃんと謝りなさいよ! 彼女うちの看板なのよ!」


「はぁ……すいません」


「ちゃんと真菜に謝って! そしてこの書類にサインして!」


「サインはしないです」


「っち!」


 この人舌打ちしたぞ……しかも俺を謝らせる流れで強制的に契約させようとしやがった。

 何を考えてるんだ?

 俺以外にも面白い顔の奴なんてこの世にはいくらでも居るだろう?


「わかったわ、それじゃぁ貴方の望みを教えて、金? それとも女?」


「高校生になんてことを……」


 この人必死だな。

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