第72話



 翌日、俺は学校に行くと英司を含めたクラスメイト数人に囲まれた。

 これはあれか?

 ついに俺を公にいじめ始めたのか?

 はぁ〜あ、嫌だなぁ……いまから机隠されたり、靴を隠されたり、落書きされたりするんだろうなぁ……。


「おい圭司!!」


「なんだよ」


「お前……昨日何してた?」


「あぁ……なんか……バイト?」


「ほぉ……そうか、それは随分楽しそうなお仕事だなぁ……」


 英司はそう言いながら、俺に向かって自分のスマホの画面を見せて来る。

 そこには昨日の生配信のスクリーンショットが映されていた。

 

「お前……見てたのか?」


「当たり前だろ! 俺は真菜ちゃんのファンクラブにまで入ってるんだぞ!!」


 そんなのあるのか……。

 

「てめぇどういうことだ? なんで真菜ちゃんとお前が写ってるんだよ!!」


「まぁ、色々あって……」


「色々ってなんだ! 意味わからねぇんだよ!! てか知り合いなら紹介しやがれ!」


 説明するのが面倒だが、説明しないとなんか離してくれなさそうだしなぁ……。

 でも昨日の出来事をありのまま伝えて普通信じるか?

 俺は信じない。

 よし、そうとなれば……。


「後で教えるから、とりあえず座らせてくれ」


 とりあえず先送りにして、後で考えよう。

 まぁ、丁度良いことに先生も教室にやってきたようだし。

 

「っち……仕方ない、ちゃんと後で教えろよ!」


「はいはい」


 よし、これであとはホームルームが終わった後に急いで教室から逃げれば大丈夫だな。

 まぁ、一日逃げれば諦めるだろ?

 てかあんな少ししか写ってなかったのに、見てるやつは見てるもんだな。

 俺はそんなことを考えながら、席につきスマホで昨日生放送について調べてみた。

 秋に公開予定の映画の番宣とそれに伴うイベントや商品の紹介が生放送の主な内容だったようだ。


「あ………」


 公式サイトを見てみると、そこにはバッチリ俺の顔が写り込んでいる。

 英司はきっとこれを見たのだろうな。

 

「やっぱ、ネットって結構危ないのかねぇ……」


 まぁ騒いでいたのは英司だみたいだし、学校の奴らにはそんなにバレていないだろう。

 バレたとしてもアイドルの生放送なんてそんなに大勢が見てるわけでも無いし。

 なんてことを俺は思っていたのだが……。


「おい前橋!」


「お前って俳優だったのか?」


「はぁ?」


 ホームルームが終わり、俺が教室からどこか身を隠せそうな場所に移動したところを八代と九条に捕まった。

 

「何を言ってんだお前ら? 良いからそこどいてくれ、でないと面倒なことになる」


「いや、でも昨日の生配信、お前出てたじゃないか!」


「知らなかったな、お前にそんな裏の顔があったなんて、今のうちにサインくれよ」


「ねぇよ、全く。良いから俺は英司から逃げないといけないんだ」


「え? あぁ、そうみたいだな、鬼のような形相でこっちに向かってきてるな」


「後ろにも何人か居るな」


「そういうわけで、じゃっ!」


 俺は二人にそう言い、直ぐさまその場を離れ身を隠せそうな場所に向かった。


「おいこら圭司!! 逃げるんじゃねぇ!!」


 廊下には英司の怒号が響き渡っていた。





 放課後、結局俺は昼休みに英司に捕まり、全て話すことになってしまった。

 絶対に信じないと思ったのだが、英司は簡単に信用した。


「なぁ、いつかそうなる予感はした」


 とのことだが、一体どういうことだろうか?

 その後の英司の掌返しは凄かった。

 サインを貰って来てほしいだの、次の撮影の時に一緒に連れて行って欲しいだの。

 別に俺は俳優になったわけではないんだが?


「なぁなぁ、本当にもう合わないのか?」


「何度も言わせるなよ、あれは昨日たまたま起きた偶然だ」


「なんだよぉ〜断らないでそのまま俳優にでもなっちまえばよかったじゃんかー」


「そんな目立つ職業、俺は絶対に嫌だね」


 あんな目立つ職業にみんな良くなりたいと思うものだ。

 俺は絶対に嫌だね、だって行く先々で勝手に写真を取られてネットにあげられるんだぜ?

 そんなのプライバシーがあって無いようなものだ。

 俺はそんな生活絶対に嫌だね。

 そんなことを考えながら俺と英司が学校の校門にやってくると、帽子にサングラス、それにマスクを付けた見るからに怪しい人が立っていた。

 背丈や雰囲気から見て恐らく女の子だと思うが、一体何をしているのだろうか?


「なんか変なの居るな」


「あぁ、関わらないほうが良いぜ圭司、避けて行こう」


 そんな話をしながら、俺と英司がその子を避けて校門を出ようとすると、その子は俺たちを見て駆け寄ってきた。

 マジか!

 何で俺たちなんだよ!!

 なんてことを思いながら、知らない顔で立ち去ろうとする俺たちだったが、女の子はあろうことか俺の服の裾を掴んできた。


「あ、あの……」


 な、なんだこの怪しい子は!!

 助けてくれ英司!!

 なんてことを俺が思っていると、英司は俺を放ってさっさと先に行ってしまった。

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