第71話 スカウトってあの……エロい動画で良く見るあれ?

 こんなちょこっとの役なら誰でも良かった気がするが……。

 これで金がもらえるんだし、良いバイトだったかもな。


「お疲れ様、いい感じだったわよ」


「はぁ……それは良かったです」


 教会のセットでの撮影が終わり、マネージャーの女性が俺の元にやってきた。

 突っ立てるだけでいい感じと言われてもなぁ。

 

「これで終わりで良いんですよね?」


 早く金もらって帰ろう。

 家に帰ってゲームしたいし。

 そう思っていた俺だが、マネージャーさんはなんだか俺に何か言いたそうな感じだ。


「えっと、これで終わりなんだけど……君さえ良かったらなんだけどね」


「はい?」


「俳優とかアイドルに興味は無い?」


「無いです」


「じゃ、じゃぁ歌手とか芸人とか!」


「無いです」


 なんだ急にこの人は、俺は早く金をもらって帰りたいのだが?


「あの、いい加減帰りたいんですけど、着替えをさせて貰えますか? あとバイト代も」


「ま、待って! 本当に少しだけ私と話しない?」


「いや、帰りたいので」


「貴方にとっても決して悪い話じゃないわよ! 単刀直入に言うけどスカウトなのよこれは!!」


「芸人のですかか? 俺ってそんな面白い顔してます?」


「いや、だから俳優とかアイドル! どっちでも良いけどうちの事務所に所属して芸能活動をしてほしいの!」


「まぁ、手は綺麗な方だと思いますけど」


「手タレじゃなくて!!」


 なんだこの人は?

 俺をからかうのもいい加減にしてほしいものだ。

 俺みたいなブサイクが俳優やアイドルになんてなれるはずないだろ。

 

「おかしいわね、普通の子なら話だけでもって流れになるのに……」


「あのなんでも良いですけど、バイト代お願いします。俺、このあと家でゲームするんで」


「ゲーム!? 良いの? こんなチャンスもう無いかもしれないのよ!」


「いえ、そういうの興味ないので」


 あれだろ?

 どうせあとからドッキリ大成功の札がどっかから出て来るんだろ?

 そうか、急に割の良いバイトに出会えたと思って浮かれていたけど。

 あの一連の流れはてテレビ局が仕掛けたドッキリだったんだ。

 じゃなきゃ俺みたいなブサイクをいきなり生配信で使ったりしないもんな。

 どうせ、何曜日かのたゆんたゆんみたいな名前の番組に決まってる。

 

「きょ、興味無い!? テレビの世界よ! 入りたくても入れない世界よ!!」


「目立つの嫌いなので」


 まぁ、番組の思惑に引っかかってやる義理も無いし。

 俺は貰うものをもらって帰ろう。

 それに、こんな美味しい話あるワケ無い。

 しかし、マネージャーさんはしつこく俺にこう言ってきた。


「じゃ、じゃぁわかったわ! あの子サインを特別にプレゼントするわ!」


「誰ですか?」


「またまた〜とぼけちゃってぇ〜、真菜のサインよ!」


「いや、いらないっす」


 持ってても毛ほどの役にも立たないしな。

 それにファンでもないし。

 

「あれぇ!? み、宮河真菜よ! あの男子高校生付き合いたいアイドルランキングぶっちぎりの一位よ!!」


「俺は別に興味無いです」


「いや、でも有名人のサインよ! 欲しいでしょ?」


「今は樋口一葉の顔が印刷された紙の方が欲しいです」


「ほ、本当に興味ないので……芸能界にも真菜にも……」


「はい」


「うぅ……貴方の顔は百年に一人の逸材と言っても過言ではないのに!!」


「そういうアイドルって毎年一人いますよね?」


 まじであの何百年に一度の美少女とかいう謳い文句はやめた方が良いと思う。

 

「くぅ……仕方ない、今日のところは諦めるわ」


「じゃぁ早く金を……」


「でも私を甘く見ないことね! 貴方のような逸材、私は決して諦めないわ!」


「………はい?」


「今日のところは帰っていいわ、でも明日から後悔することね! 私のスカウトは始まったばかりよ!」


「………」


 なんなんだこの人は?

 結局俺は金を受け取り、着替えを済ませてそのまま家に送ってもらった。


「一応これ、私の名刺よ。いつでも連絡してね」


「いえ、大丈夫です」


 後でゴミ箱に捨てよ。

 マネージャーさんはそう言って俺を車から下ろし、そのまま走り去っていった。

 一体なんだったたのだろうか?

 結局ドッキリ大成功のプラカードは出て来なかったし……まぁ良いや、金も貰ったしさっさと部屋に行こう。

 俺はそんなことを考えながら、玄関の戸を開け自分の部屋に向かう。

 

「はぁ……はぁ……すぅー! はぁ……け、けいちゃんの匂い……」


「………」


 部屋の扉を開け、最初に見た光景は俺のベッドで気持ち悪く悶狂う姉の姿だった。

 俺はなんだか危険を感じたのと、そろそろこの姉とは別居を考えた方が良いのでは無いかと本気で考えながら、自分の部屋の扉を閉じた。


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