第70話 結婚って人生の墓場っていうよね?
まぁ、俺にとってはどうでもいい話だ。
きっと英司なら見た瞬間にわかるのかもしれないが、俺には馴染みがなさ過ぎてわからなかった。
「やっぱ、そんなに大した事無いな」
井宮や高城を見なれているからだろうか?
でも、良く芸能人は芸能人特定のオーラのようなものを感じるというが、あの子にはそういうの一切感じなかったしなぁ……。
なんてことを考えていると、俺の髪のセットが終わった。
流石はプロだ、姉貴よりも上手い。
まぁそれは当たり前のことか。
「うーん、マジで良い男ね、貴方本当に一般人?」
「はぁ……そうですけど……」
社交辞令とは言え、そういうことを言われると照れてしまうな。
しかし、なんで俺の衣装が白のタキシードなんだろうか?
さっさと終わらせて家に帰らせてもらおう。
セットが終わってから数分後、またしてもあのマネージャーさんが部屋に入ってきた。
「お疲れ様で……おぉ! 流石私の見立てた通りね! もともとのモデルさんよりも良い感じにしやがってるじゃない!」
「それはどうも」
この業界って社交辞令が多いな。
まぁ良いか、悪い気はしないし、早く終わらせて金をもらって帰ろう。
マネージャーさんに連れられ、俺はスタジオにやってきた。
教会風のスタジオセットに大きな金、まぁこの白のタキシードを着た瞬間からそういう設定の撮影では無いかと思っていたが、これはまさしく結婚式だな。
「君は花婿よ!」
「はぁ……まぁ、なんとなくそんな気はしてましたけど」
「それで、花嫁はウチの真菜よ!」
「まぁ、そうでしょうね」
「この生配信では秋に公開予定の映画の宣伝を兼ねているの、一人の女性が二人の花婿から取り合われる三角関係のラブロマンスよ!」
「そうなんですか、それで俺は何をすれば良いんですか?」
「君、結構ドライね」
「まぁ、自分のやることだけ教えて貰えれば、それで良いので。それに俺は素人ですし」
「まぁ、確かにそうね……でも貴方もお金をもらって出るからにはプロと一緒よ! 映像作品に出るからには意識を高く持ってもらわないと!」
なんで俺は怒られているんだ?
俺、半ば無理やり連れてこられた一般人なんだけど。
まぁ、確かにお金を貰う以上はちゃんとしないとな。
「わかりました、それで俺は何を?」
「そこに立って彼女が他の男に奪われるのをただ傍観していればいいわ」
「その配役でどうやって意識を高く持てと?」
ただ立ってるだけじゃないか。
まぁ、立ってるだけだし別に良いか。
俺はそのまま自分が立つ場所に待機する。
生配信が始まるのは今から5分後、俺が映るのも一瞬らしいしまぁ大丈夫だろ?
5分前から他のスタッフや出演者は緊張した様子で待機している。
これがプロの現場ってやつか……いつも見ているだけだが、裏ではこんなに色々な人たちが動いているんだな。
俺がそんなことを考えていると、今日の生配信の主役とも言える宮河真菜がやってきた。
「お待たせしましたー!」
彼女はそう言って、白いウエディングドレス姿でスタジオにやってきた。
その瞬間俺以外の男性スタッフの目線は彼女に釘付けになった。
彼女はそのまま俺の元にやってきた。
「じゃぁ、よろしくお願いしますね! 生放送なので一発勝負なんですけど、頑張りましょうね!」
「あぁ、そうですね」
俺の緊張を解こうと彼女は俺に笑顔で話掛けてくれた。
だが俺は別に緊張しているわけではないので、別に彼女の笑顔では何も感じ無いが、周りいの男たちの殺意の困った視線はひしひしと感じた。
いや、マジで俺何も悪い事してないんですけど……。
「それでは本番一分前でーす、真菜ちゃん、それと……誰だっけ? 準備お願いしまーす!」
せめて俺の名前くらいは把握しててほしいんだけど。
まぁいいや、後一分したら俺のこの仕事も終わる。
そしたらさっさと帰ってゲームしよう。
俺がそんなことを思っていると、本番10秒前の号令がかかり、目の前の宮河真菜は真剣な表情で俺を見て小声でこういった。
「じゃぁ、お願いします」
「本番5秒前! 4…3…2…1…!」
俺が返答を返す前に生放送はスタートした。
スタートと同時に音楽がなり、目の前の宮河が俺に笑い掛ける。
その次の瞬間、バタンと大きな音がなり、教会のセットの中に男性俳優が入ってきた。
「その結婚! ちょっと待ったぁぁぁ!!」
男は俺と宮河の元まで走って来ると、俺の手から宮河の手を奪いこう言う。
「この人は俺のものだ!」
そう言って男性俳優は俺の元から宮河を奪い取り、そのまま教会のセットの外に出ていった。
はい、これで俺の仕事終了。
カメラも男性俳優を追って言っちゃったし、もう気を抜いてもいいだろう。
「はぁー疲れた」
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