第68話 アイドルなんて現実に居ないのと一緒


 アイドル、それはテレビの中の存在であり、俺のような一般人とは一切縁の内存在である。

 

「いやぁ〜それにしても可愛いよなぁ〜宮河真菜(みやかわ まな)ちゃん」


「誰だそれ?」


「前橋知らないのか? 最近出てきたアイドルだよ!」


「あぁ、俺は興味ないな」


「なんだよ、少しは話を聞けよ〜」


 英司は最近このアイドルにご執心らしい。

 正直俺はアイドルには興味がない。

 結局は生身の人間、いくらアイドルと言ってもその正体はライバルを蹴落とし、業界で権力を手に入れることしか考えていない、汚い大人たちのコマだ。


「何が良いのか俺にはわからんな」


「まぁまぁ、そう言わずに見ろよ」


 そう言って英司は俺の机の上にグラビア雑誌を広げてくる。


「ほら! 健康的で細長い手足! きゅっと締まった腰! そして極めつけはこの胸!! メロンでも入ってそうだろ?」


「全部外見の事だろうが」


「いや、この子は外見だけじゃないんだ! 天然でおっちょこちょいだけど、頑張り屋で人一倍努力してるんだ!」


「ふーん、なるほどそう言うキャラか」


「キャラとか言うなよ!! そういう性格なの!」


「いや、きっと事務所の方針だろ? 実際は腹黒い性格してるんだぜ? 絶対楽屋でファンの悪口言ってるよ」


「そういう夢も希望もないことを言うなよ!! 真菜ちゃんはそんな子じゃない!!」


「どうだかな……」


 教室でそんな話をしていると、どんどん人が集まってきた。


「おいおい何の話だ?」


「宮川真菜じゃねぇか、可愛いよな」


「八代に九条聞いてくれよ、前橋の奴ひでぇんだぞ!」


「別にひどくねぇだろ、俺はただ自分の想像を言っただけだ」


 最近、この二人は良く俺の周りに現れるようにあった。

 野球部の八代とサッカー部の九条、どちらも俺とは違う陽キャのリア充だ。

 どうやら英司と仲良くなったらしい。

 まぁ、たまに英司が居ないときも俺の目の前に現れるが……それは俺の気のせいだろう。


「確かにおっぱいでけぇよなぁ〜」


「馬鹿か八代、女はやっぱり足だろ? 見ろよこの細くて白い綺麗な足」


「普通そうだよな? アイドルのグラビア見てたらそういう反応になるよな?」


「へー、じゃぁ俺もう帰るわ」


「待て待て! 何でだよ! 今から盛り上がるんだろうが!!」


「いやだって俺興味ないし、帰ってゲームしたいし」


「おいおい前橋、お前も男だろ? ちょっとくらいは可愛いと思うだろ?」


「クールが売りの俺でも、こういう話では正直になるぞ」


「八代、九条、お前らも部活じゃねぇの?」


 なんでコイツらは三次元のアイドルでここまで盛り上がれるんだよ。

 二次元の女の子の方が可愛いし、理想の女の子が作れるというのに。


「はぁ……てか、ウチのクラスにはこのアイドルと同じくらい可愛い女子が二人もいるだろ? 今更この子を見ても可愛いなんて思わねぇよ」


「え? もしかして井宮さんと高城さんのことか?」


「まぁ……確かにそうだけど、流石にアイドルにはなぁ……」


「テレビの中のアイドルには勝てねぇって」


「それはお前らの目がアイツらになれすぎてるんだよ。よく見てみろ、スタイルは井宮の勝ち、胸は高城の圧勝だろうが」


「言われてみれば……」


「確かにそうかもな」


「ま、顔は流石に好みだけどな、正直俺はこの子は井宮や高城レベルだと思う」


「「「なるほど!」」」


「確かにそういう解釈も出来るな!」


「ふむ……俺たちは近すぎて気がついてなかったのか……」


「圭司、お前結構見てんじゃん」


「うるせぇ! はい、話終わり! 俺は帰る!」


「おう、じゃぁな!」


「前橋、また明日な!」


「気をつけてな」


 馬鹿共に付き合うのもつかれたな……。

 俺はため息を履きながら教室の外に出る。

 するとそこには顔を真っ赤にした井宮がドアにもたれ掛かって立っていた。


「ん? 井宮いたのか」


「……うん」


「あ、そうだ丁度良かった、今日の夜のイベントなんだけど、お前何時から出来る?」


「………前橋」


「ん? なんだよ?」


「スケベ……」


「え? は? なんで?」


 井宮はそう言って顔を真っ赤にながら帰っていった。

 俺、何かした?

 てかイベントいつからやるんだよ!

 

「ま、いっか……後でメッセージ送って聞こう」


 俺はそんなことを考えながら、自宅に帰り始めた。

 イベントのために今日は徹夜するだろうし、コンビニでエナジードリンクでも買って行こう。

 俺がそんなことを考えながら歩いていると、突如物陰から誰かがこちらに向かってツッコんできた。


「うぉっ!」


「きゃっ!!」


 俺は誰かとぶつかり尻もちをついてしまった。


「いてて、なんだよ急に……」


 一体なんだ?

 突然走って出てきやがって、危ないったらありゃしない。


「す、すいません! ちょっと急いでて……」


「あぁ、別に……怪我ないっすか?」


「は、はい私は全然」


 ん?

 なんでだろう、なんかこの顔見たことあるような……しかもついさっき……。

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