第67話 私はあいつが……

 カッコよく助けてくれたと思ったのに、これだもん。

 本当にこいつはいろいろ残念だ。


「それで私に何の用よ」


「あぁ、実は今日お前に頼みがあってここに呼んだんだ」


「頼み?」


「お前も知ってると思うが、実は俺が好きなアニメのコラボカフェが近くに出来てな……」


「いや知らないわよ……そんなご存じみたいに言われても……」


「というわけで、一人は怖いから一緒に来てくれ」


「なに中学生みたいな事を言ってるのよ」


 まぁ、こんなことだろうと思ったけど……。

 でも、まぁいっかこいつにロマンチックな事を期待する方が無理ね。


「はぁ……それなら私も気になってたし、良いわよ」


「おぉ! 流石井宮だ! じゃぁさっそく行くぞ!」


「はいはい」


「あ、そう言えば……」


「ん? 何よ?」


「お前なんか今日良い匂いするな」


「え? そ、そう? 香水つけてるからかな?」


「どこか行く予定でもあったのか? なんかいつより綺麗な気がする」


「は、はぁ!? な、何よ急に……」


 気が付いてないと思ってたけど、意外とこいつ私の事見てるんだ……。

 てか、なんで無自覚にこいつは女子に綺麗とか言うのよ!!

 顔が良いからドキッとするのよ!


「べ、別に……いつも出掛ける時はこうだから……」


「そうなのか? じゃぁ出かけるたびにナンパに会って大変だろ?」


「別にそんな毎日ナンパされないわよ」


「そうなのか? まぁでも気を付けろよ、俺次は怖くて助けられないから」


 はぁ……かっこ悪い。

 でもこいつらしいか……。


「怖いなら無理に助けなくていいわよ」


「あぁ……まぁ確かに怖いんだけど……あのときはなんか体が動いてさ……なんでだろうな?」


「………知らないわよ」


 こいつのこういう無神経なところが私は嫌いだ。

 そうやって私の心をまたかき乱す。

 何よ体が動いてって……それって私の事を心配して、考えるより先に体が動いたって事じゃん……まぁ、本心は分からないけど。


「流石に人が多いな」


「そうね、でもすごいわよ、このメニューとかアニメのままよ!」


 コラボカフェは人がいっぱいだった。

 みんなアニメが好きで来ている人ばかりでみんな写真を撮りまくっている。

 興奮しているの私達だけではなく、カフェに居た人みんな興奮している感じだった。

 もちろん私も好きなアニメなのでかなり興奮していた。


「な、なに頼む? ファンとしては全品注文したいんだが!!」


「馬鹿! そんなに食べられるわけないでしょ! 限定コースターがもらえるドリンクと何か好きなの良いんじゃない?」


「そ、そうか……急に誘ったのは俺だし、奢ってやるから井宮もなんでも好きなの頼めよ」


「え? でも悪いわよ」


「いや、急に呼び出しちまったしな、それに俺の趣味に付き合ってもらってるし、なんでも頼んでくれ」


 そう言いながら前橋は目をキラキラさせて店内を見ていた。

 話も合うし、一緒に居て楽しい存在……。

 こいつと居るのは本当に楽しい。

 正直言うと諦めたくない。

 相手が初恋の女の子であろうと、学校一の美少女であろうと負けたくない。

 私はこいつと一緒に居たい。

 私は前橋と居るうちにいつの間にかそう思うようになっていた。


「あ、井宮! 一緒に写真撮ろうぜ!!」


「え? 良いけど、なんで?」


「見ろ! 等身大パネルだ! あそこで店員さんに記念撮影してもらえるらしい!」


「マジ!?」


「並んでるから俺達も並ぼうぜ!」


「もちろんよ! はぁーなんで呼ばれたのかと思ったけど、来てよかったぁ~」


「あたりまえだ! お前とじゃないとこういうところは楽しくないからな!」


 それは同じ趣味を持っているオタクだからという意味なんだろうけど、私にとっては今はそれで充分。

 私は私なりに前橋に振り向いてもらえるように頑張ってみよう。

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