第64話 宿泊学習編41

「い、いきなり何よ……」


「いや、高城と友人に戻るとしたら、お前との関係も友人関係にしなくては不公平だろ?」


「ふ、不公平?」


「あぁ、なんか俺の中でそう思うんだ」


 もともと井宮からも友達になろうって言われてたしな……ここで井宮との関係まで有耶無耶にしてたら後で色々と面倒そうだ。

 それに……こいつの事を信用していないわけでも無いしな……まぁ、英司ほどでは無いが。


「な、何よそれ……この前は面倒とか言ったくせに」


「まぁ……別に嫌なら良いんだが」


 なんかそう言われると少し悲しいな……。

 確かに面倒って言ったのは俺だけど……。


「な、なんで凹むのよ! べ、別に嫌とは言ってないでしょ!」


「確かにそうだが、俺のメンタルは豆腐のように脆い! もっと優しくしろ!」


「威張って言うことじゃないでしょ……」


 ため息を吐きながらそういった後、井宮は笑みを浮かべながら俺にこういう。


「まぁもう友達みたいなもんでしょ」


 そう言って笑い掛ける彼女の笑顔がなぜか俺は印象に強く残った。


「そ、そうだな……」


 まぁ、元から顔は良いと思っていたが……なんで急にあんな綺麗に見えたんだ?

 しかし、これで高城とのことは上手くいきそうだ。

 まぁ、友人が三人になるのは少し面倒かもしれないが、こうなっては仕方がない。

 それに……高城とはもっと色々な事を話てみたいし……主にダイエットについて。

 そんな事を考えながら、俺は帰りのバスの中で眠ってしまった。





「………」


「ねぇ、椿ー! あしたさー……って! 何羨ましい事になってんのよ!!」


「し、仕方ないでしょ! な、なんかこいつ寝ちゃうし……こっち倒れてくるし……」


 バスが出発して十数分が経った頃だろうか、私の隣の席の自称根暗ボッチゲーマーは眠ってしまった。

 まぁ、別にそれだけなら全然良い、良いのだが……なんで私の方に頭を傾けてくるのよ!!

 おかげで私はさっきから緊張しっぱなしだ。

 周りには冷静である事を装う為に、平然を装ってスマホを弄っているふりをしているが、実際はスマホで何もしていない。

 

「いいなぁ……イケメンの顔が直ぐ近く……」


 た、確かにこいつ顔は抜群に良いし、なんか男のくせに良い香りするし……あぁ!! 昨日の事もあって変に意識してる時にやめてよね!!

 

「お、起こしてやろうかしら……」


「あ、なら待って! 写真撮っておくから」


「アンタねぇ……」


 前の席の美佳がそう言いながら私の隣で眠る前橋にスマホのカメラを向ける。


「やめなさい、無断で写真を取るのは」


「えぇ〜でも良い顔なんだけどなぁ〜」


「前橋が嫌がるかもしれないでしょ」


「まぁ……そうだけど……良いなぁ〜椿は前橋君と仲良いから……」


「別に普通よ……」


「でも聞いたよ? なんか前橋君に命がけで助けてもらったんでしょ?」


「一日目の夜の話に随分尾ひれがついてるようね……」


 まぁ確かに助けてはもらったけど……。


「前橋君って、絶対椿に気があるでしょ!」


「え? そ、そんなわけ無い無い。だってこいつ私の事をそういう目で見てないし」


「そうかなー? 前橋くんって男子とも全然仲良くしてるところ見ないけど、椿とは楽しそうに話するよね?」


「き、気のせいよ……」


 そんなの趣味が合うだけよ。

 他にゲームの趣味が合う友達を見つけたら、私なんてすぐに用済みよ……。

 そのはずなんだけど……なんで私は美佳にそう言われて嬉しかったんだろう?

 隣で眠る前橋を見ながら私はそんな事を考える。

 綺麗な顔してるのに……なんで自分の事をブサイクだなんて言うんだか。

 こいつにちゃんと鏡を見せてやりたものね。


「くそぉ……前橋のやつ〜井宮さんの肩にぃ〜」


「羨ましい!! 羨ましい!!」


「イケメンだからって俺たちは容赦しないぞ……」


「はぁ……前橋君、眠るなら僕の肩を貸すのに……」


 な、なんか周囲から殺気みたいなものを感じるわね……気のせいかしら? 

 それに紛れてなんか変な気配も感じるし……。

 それにしても……私、高城さんの事を応援するなんて言って、何にも出来なかったなぁ……。

 昔友達だったブーちゃんが高城さんで、そのブーちゃんを昔好きだったのが前はしで……高城さんは今も前橋が好きで……。


「こんなの……入る余地なんてないじゃない……」


 実質両思い見たいな二人の間にはきっと誰も入れない。

 それを考えてしまうとなんだか胸が痛くなる。

 どうしただろう?

 高城さんと前橋が上手く行くのは良いことのはずなのに……。


「………」


「馬鹿……」


 私はそう言いながら、前橋の鼻をつまむ。


「ふ…ふがっ!! はっ!! な、なんだ? 急に息苦しくなったような……」


「おはよう、よく眠れた? いい加減肩が疲れたから反対方向に頭を向けて寝てもらえる?」


「え? あぁ……悪い井宮」


 起きた前橋は私にそう言って、再び眠り始めた。

 今度は窓の方に頭を傾けて。

 

「………もう少しあのままでも良かったかな……」 

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