第63話 宿泊学習編40
✱
「色々あったけど、今日で最後か……」
「ふあーあ。おはよう」
最終日の朝、俺は歯を磨きをしに洗面所にいた。
昨日の夜のことを考えていて、あまり夜は良く眠れなかった。
そこに英司が寝癖のついた髪で洗面所にやってきた。
「昨日は眠れたか?」
「まぁ……顔を見たら分かるだろ?」
「あぁ、いつもどおりの憎たらしい顔で安心した」
「おい」
そんな話をしつつも俺と英司は歯を磨き、髪型を直し身支度を整える。
「今日って午前中はあの施設のおっさんの話を聞くんだろ?」
「あぁ、話聞くだけだし楽で良いよな」
「昨日とその前の日がおかしかったんだよ……なんだよあのレクリエーション」
「まぁ、良いじゃん、結構楽しかったし」
そんな事を言いながら男子部屋の廊下を歩いていると、色々な部屋から話声が聞こえてくる。
「え!? お前マジで!? 昨日告られたのか!?」
「羨ましいぃ〜ちょっと殺していいか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫、ちゃんと死体は山の中に埋めるから!」
なんか朝から物騒な会話ばっかり聞こえてくるなぁ……。
それに比例して叫び声まで聞こえてきやがる……。
「朝から元気な奴らだな」
「まぁ、昨日のあのイベントのせいだろ。お前も気をつけろよ」
「なんでだよ、俺は別に告られてもないし、彼女が出来たわけでもないんだが?」
「お前の場合はモテるってだけで男子から恨まれるんだよ。まぁ、お前が無自覚に色々してるから、男子も一目置いてあんまり手を出したりはして来ないみたいだけど」
「はぁ? どういうことだよ?」
「何でもねぇよ、それよりも早く部屋戻って着替えないと、朝の集会に間に合わないぞ」
俺たちは着替えを済ませ、荷物を持って施設内にある体育館に集まった。
ここでこの施設の施設長から話を聞いて、今回の宿泊学習は終了となる。
明日は休日で月曜日までの三連休になるので、これを乗り越えれば天国が待っているわけなのだが……。
「お、おはよう……圭司君」
「え? あ……あぁ……おはよう」
朝、集会の前に俺は高城に話掛けられてしまった。
しかも以前のように名前で呼ぶようになっており、嫌でも高城がブーちゃんなんだということを痛感させられる。
なんとなく気まずさを感じ、俺はそれ以上高城と何を話して良いのかわから無くなってしまった。
「きょ、今日で終わりだね」
「あ、あぁ……」
気を使ってくれたのか、高城の方から話題を振ってくるが、これまたなんと言ってかわからず、俺は生返事を返してしまう。
折角会えたのだ、色々話したいことなどあったはずなのに……なぜ、こうも話せないのだろうか?
そんな事を考えているうちに集会は始まり、俺と高城の会話は終わった。
「みなさんも森で見たと思いますが、森には様々な生き物が……」
施設長の話しは森に住む生き物の話しや、森の歴史などだった。
一番宿泊学習っぽい行事なのだが、俺は施設長の話しが全く頭に入って来なかった。
一時間ほどの話しが終わった後、俺達は3日んお世話になった施設の皆さんにお礼を言って、バスに乗り込む。
行きと同じ席順なので、隣は井宮だ。
「アンタ、今日は上の空ね」
「え? あぁ……まぁな」
「昨日の事、まだ整理がつかないの?」
「……あぁ、そんなところだ」
「………そう」
井宮は俺の様子を察したのか、その後はあまり話し掛けて来なかった。
恐らく気を使ってくれたのだろう。
しかし、俺は少しして井宮に訪ねた。
「なぁ……井宮」
「何よ」
「友達ってなんなんだろうな」
「は? 哲学?」
「いや……ふとそう思っただけだ」
「……そんなの人によって考え方なんて違うわよ。アンタの考え方だって人とは違うでしょ?」
「まぁ……そうなんだが……」
「……もし、高城さんの事で悩んでるなら……今の自分の気持ちを正直に言った方が良いわよ」
「え?」
「そうじゃないとあの子が可愛そう、わかった?」
「あ、うん……」
俺の正直な気持ちか……。
正直よくわからない。
友人を増やすのは面倒な気持ちもある反面、高城とは前のような関係に戻れるなら戻りたいと思っている。
でも、それによって高城に何か不都合が生じないだろうか?
そんな事を気にするなら、もういっそこのまま何も知らなかった時のように過ごすのが一番良いのだろうか?
いや……これは俺の我がままだ。
あそこで高城が俺に正体を打ち明けたということは、きっと高城は俺と前のように仲良く過ごしたい気持ちがあるのだろう。
そんな高城の思いを……俺は踏みにじるなんてこと……出来ない。
「………はぁ……なんで人ってこんなに悩む生き物なんだろうな」
「人だからじゃない?」
「まぁそうか……お前は知ってたのか?」
「まぁ、話しは聞いてたから」
「そうか……じゃぁ井宮」
「何よ」
「俺と友達になろうぜ」
「え?」
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