第62話 宿泊学習編39

「なるほど、高城はお前の小学生の頃のクラスメイトで仲の良かったブーちゃんだったんだな」


「あぁ……俺、これからどうやって高城と接していけば良いんだろ」


「……そうだなぁ……まずは死ねば良いんじゃないか?」


「おい! どこから出したそのカッター!!」


「うるせぇ!! なんなんだお前ばっかり!! 俺だってそんな出会いが欲しいよ!!」


「ば、馬鹿! そんな物振り回すな!!」


「くそぉ!! なんでお前ばっかり……」


「相談する相手を間違えたかもしれん」


 というかどうしよう……まさか高城がブーちゃんだったなんて……。

 そういえばブーちゃんの家に行った時、高城って表札が掛かってた気がする。

 昔は読めなかったから気にしてなかったけど……。

 でも、人ってあそこまで変わるんだな……まるで別人だ。


「はぁ……また仲良くか……」


 今の高城はクラスの人気者で学校一の美少女の一人。

 俺なんかと仲良くしてたら、自分の評価を落としかねないし、何のメリットも無いと思うのだが……。

 やっぱり昔の縁ってやつなのだろうか?

 ともかく、これでようやく高城が俺に絡んでくる理由がわかった。

 あいつは昔の友達である俺を心配して気にかけていたのだろう。

 でも、俺がブーちゃんだって気が付かないし、信じて貰えないと思って話さなかったんだ。

 それで、良い機会だと思ってブーちゃんの話が出た宿泊学習で打ち明けたと……。


「はぁ……まさかあんな美少女になるなんて……」


 本当にどんなダイエットをしたのだろうか?

 ライ○ップかな?

 てか、明日どんな顔で高城に会えば良いんだ?


「はぁ……憂鬱だ」


「随分幸せそうな悩みを抱えてやがるな……」


「幸せな訳あるかよ……色々大変なんだ」


「はぁ……そんな悩み俺も抱えてみたいよ」





「行っちゃった……」


「随分困惑してたみたいね」


 私、高城優奈は行ってしまった彼の事を思い出しながらそうつぶやく。

 ついに言ってしまった。

 ずっと私が隠してきた事を前橋くんに……。

 私にとってこれは賭けだった。

 あの事を打ち明けて、私は前橋くんと元の関係に戻れるのではと期待する反面、もしかしたら前のように仲良くは出来ないのかもしれないという不安もあった。

 

「前橋くん……私の事を嫌いなのかな?」


「そんな事無いと思うわよ……あいつは今混乱してるだけよ」


「そうだと良いんだけど……」


「そうよ、だって自分がイケメンって自覚の無い馬鹿よ? 馬鹿なりの頭で話された事を整理する時間が必要なのよ」


「そうなのかな? でも……信じてくれてよかった……」


「……そうね」


「………ねぇ、井宮さん」


「ん? 何?」


「あのさ……もう一回聞きたいんだけど……井宮さんは前橋君の事をどう思ってるの?」


「え……」





「井宮さんは前橋くんの事をどう思ってるの?」


「え……」


 そう言われた瞬間、私は頭の中で先程の前橋と井宮さんの光景がフラッシュバックしてきた。

 あの時の二人を見た瞬間、私は心の中で何かモヤモヤしたものを感じた。

 なんでこんなに心がモヤモヤするのか私は全くわからなかった。

 でも、なんでだろう……あの二人が二人きりで一緒に居るところをあまり見ていたくなかった。


「ど、どうって言われても……私は前も言ったとおり……」


「……なら良いけど……もし井宮さんがライバルになっても、私負けないよ」


「そ、そんなのある訳ないでしょ?」


 とは言いつつも私は彼女のその言葉に動揺していた。

 私の気持ちは一体どうなのだろうか?

 前までは確かにただのゲーム友達だと思っていた。

 でも、今回の宿泊学習で彼に言われた言葉が心の奥に残っていた。


『……お前は一応俺にとって特別な存在だからな』


 この言葉が私の心をかき乱す。

 なんなんだろう。

 あいつは本当に何なんだろう。

 人の気持ちなんて考えてもいないかと思えば、人の心に響く言葉を投げつけてくる。

 最低なやつかと思えば、なんだかんだでピンチのときはやってきて助けてくれる。

 そんなの反則よ……普通にかっこいいだけじゃない。


「井宮さん」


「な、何?」


「井宮さんには既に先を越されてるけど……私も頑張るから」


 先を越したのは一体どっちなのだろうか?

 昔好きだった人を相手に……もし! 私がアイツを好きだったとして!

 どうやってた太刀打ちすればいいのよ……。

 高城さんは可愛くて清楚で……それに比べて私はゲームが趣味のオタク女子。

 まぁ、多少は容姿hが良いほうだけど、前橋の場合容姿だけで人を判断するのようなやつじゃない。

 そういうところはあいつの好感がモテるけど……って! なんで私こんな事を考えてるのよ!!

 別に私は前橋のことなんて好きでも何でもないし!

 

「だ、大丈夫よ……私はあいつのただのゲーム友達だから……」


 そう高城さんに行った時、私の心のモヤモヤが更に大きくなった気がした。

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