第58話 宿泊学習編35

「良いか? この学校にはこの宿泊学習最後の夜に生徒だけのとあるイベントがあるんだ」


「イベント? なんだよそれ」


「女子が男子を夜に施設の外に呼び出すって言うイベントだ」


「なにそれ? 夜に呼び出して何させられんだ? 肝試し?」


「アホか! 告白に決まってるだろ!」


「へー」


「興味ゼロだな……」


 まぁ興味ないし、俺は別に呼ばれてるわけじゃない……し?

 あれ?

 なんか俺、今日の夜二人から施設の外に来るように言われてない?

 いやいや、ないない!

 だって俺だよ?

 ブサイクで有名な前橋くんだよ?

 いや、絶対に無いよ。

 てか、片方井宮だしありえないって。


「どうした? 何か考え事か?」


「いや別に……」


 俺の表情の変化に気がついたのか、英司が俺にそう言ってくる。

 まぁ、俺の呼び出しはそのイベントとやらには関係ないだろう……。


「それで、前橋は誰に呼ばれてるんだ?」


「別に誰も呼ばれてねぇけど、てかなんで九条も来るんだよ」


「良いだろ? 実は俺、同じクラスの中本の呼ばれてるんだ……」


「ふーん、あっそ」


「興味ゼロか」


「まぁどうでも良いし……ってか九条気をつけろよ」


「何がだ?」


「嫉妬にまみれた男子がお前をにらみながら取り囲んでるから」


「え?」


 そう言って自分の周りを見回す九条。

 九条の周りにはフルチンの男どもが嫉妬に狂った表情で九条を取り囲んでいた。

 巻き込まれるのはごめんなので、俺はそーっと風呂の端っこに移動する。

 もちろんその中には英司の姿もある。


「な、なんだお前たち!!」


「やかましい! お前ばっかり彼女を作る気だなぁ〜」


「許せん! これは裏切り行為だ!」


「このムカつくイケメンに天罰を!!」


「「「天罰ぉぉぉぉぉ!!!」」」


「ば、馬鹿来るな! やめろぉぉぉぉぉぉ!!」


 九条はそのままフルチンの男子生徒達に粛清された。

 哀れだなぁ九条……こんな人の多い場所でそんな話をすれば嫉妬を買うに決まってる。

 だって、ウチのクラスの男子は基本モテないやつしか居ないし、変な奴らばっかりだし。


「九条の奴軽率だったな」


「だからなんで俺のとこに来るんだよ……」


 やっと一人になれたと思ったら、今度は八代が俺に話掛けてきた。

 なんでこいつらはあの一日目の風呂から俺のところにやってくるようになったんだ?

 出来る限り俺は一人になりたいのだが……。


「まぁ、いいじゃないか! もう俺たち友達だろ?」


「お前と友達になった覚えはない」


「前橋厳しぃなぁ〜、まぁ良いや。それよりも前橋は女子から呼ばれまくってんじゃねぇーの?」


「はぁ? なんでだよ」


「だってお前モテるだろ?」


 はぁ……またこういって馬鹿にして来るのか。

 こんなのモテない俺への皮肉に決まっている。

 だって俺、生まれてこのかた一度も告白とかされた事ないし、何だったら気持ち悪いと言われて来たし。

 はぁ……なんか否定するのも面倒だし、もう無視しようかな?


「あ、でもそっか……前橋には井宮さんが居るから誰も呼ばないか」


「なんでそこで井宮が出て来るんだよ」


「え? だって付き合ってはいないけど、相思相愛なんじゃないの?」


「はぁ?」


 今度はこの馬鹿何を妄想話をし始めてるんだ?

 俺と井宮が相思相愛?

 まず、俺は井宮を恋愛対象として見ていないのだが?

 その時点で相思相愛はおかしいだろ。

 と言うか、どっからそんな噂がでたんだよ……。


「え? だって、命がけで井宮を昨日の夜助け出したんだろ?」


「んな事してねぇよ。まぁ助けはしたけど」


 正直命がけなんて言えるほどの事をやってはいないしな。

 

「そうなのか? かなり噂になてるぞ? 前橋が危険を顧みずに井宮を崖から救ったて」


 それ、どこのスーパーマンの話だよ……どうやら昨日の話が噂になって、噂に尾ひれがついてるみたいだな……。

 まぁ、噂なんてものはすぐに消えるし、あまり気にはしないが。


「井宮とはそういう関係じゃねぇよ、勘違いすんな」


「そうなのか? お似合いだと思うんだがなぁ……」


「そりゃどうも、先に上がるぞ」


 俺はそう言って風呂から上がり、脱衣場に向かおうとする。

 直ぐ横ではフルチンの男たちに粛清され、真っ白に燃え尽きた九条の姿があった。

 九条、これに懲りたらうちのクラスでそういう話はするなよ……。

 風呂から上がり部屋に戻る途中、俺は丁度風呂から上がった高城と出会った。


「あ……前橋君」


「ん、高城も今上がりか?」


「う、うん……そう」


 風呂から上がったばかりだからか、なんだか顔が赤い。

 それになんだかいつも以上に良い匂いがする。

 まぁ、風呂に入ったからだろうが。


「あ、あのさ……今日の夜23時に施設の外の裏口で待ってるから……」


「え? あ、あぁ……わかった」


「それじゃ……」


 そう言って高城は走って部屋に戻っていった。

 

「話ねぇ……」


 一体何の話なんだろうか?

 なんて事を考えていると、俺は脱衣所の方から多数の嫉妬と憎悪に満ちた視線を感じた。


「やっべ………」

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