第57話 宿泊学習編34

「井宮の奴……捕まったな……」


「なにぃ!? 井宮さんが!!」


「俺たちを助ける為に!!」


「こうしちゃ居られない! すぐに救出に行くぞ!!」


「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」


 あぁーウチの男子共は本当に元気だなぁ〜。

 てか、あいつらさっきまで捕まってたこと忘れてるんじゃないよな?

 まぁ、井宮のことは別に大丈夫だろ、放っておいても助けに行くやつがたくさん居るし。

 

「さて、じゃぁ俺はもう頑張ったから後よろしく〜」


 俺は小さな声でそう言い、そのまま自分のクラスの陣地近くにあるベンチで休憩する。

 はぁ……まぁこれで敵から必要以上に追われる心配はなくなったわけだし、後は隠れながら逃げてこの行事をやり過ごそう。

 なんて事を考えていると、高城が俺のもとにやってきた。


「ま、前橋君!」


「ん? 何?」


「あ、あの……ありがとうね、助けてくれた」


「いや、別に高城だけじゃなくて他の奴らも助けたかったし」


「あ、そ……そっか……そうだよね……」


 高城優菜、俺はこの女子の事がよくわからない。

 俺と友人になりたいと言い出したり、休憩時間に話掛けてきたり。

 学校一の美少女の一人であり、生粋のリア充である高城と根暗でボッチな俺。

 全く接点の無い俺になんでこいつはこんなに絡んで来るのだろうか?


「あ、あのさ……前橋君はこれからどうするの?」


「どうするって?」


「いや、皆残りのクラスメイトをどうやって助けるか皆考えてるけど……前橋君はどうするのかなって」


「あぁ、俺はさっき頑張ったから少し休憩だ。井宮も捕まっちまって暇だしな」


「………」


 俺が井宮の名前を出すと、高城はなぜか面白くなさそうな顔をし始める。


「あ、あのさ……前橋くんと井宮さんて……付き合ってるわけじゃないの?」


「え? いや無い無い、そんなの絶対無い」


「で、でも仲良いよね?」


「そうでも無いぞ? 昨日はビンタされたし」


「え!?」


 あぁ、あのビンタマジで痛かったなぁ〜。

 井宮のことはこれから絶対怒らせないようにしよう。


「そ、そうなんだ……じゃ、じゃぁ……前橋くんが井宮さんを好きとかは?」


「無いな。多分そんな事をあいつに言ったらキモいって言われる」


「そ、そっか………」


 なんだか腑に落ちていない様子の高城。

 なんだ?

 本当にこいつは俺に何のようなんだ?


「……あのさ、前橋君今日の夜って空いてる?」


「いや、空いてるも何も……夜は基本部屋から出られないだろ?」


「そ、そうなんだけど、実は施設から先生の目を盗んで出られ隠し通路みたいなものがあるんだって」


 なんかその話井宮からも聞いたな。

 その抜け道を使って夜に井宮と会おうとしてるしなぁ……。


「その抜け道から出られたとして、何か俺に用でもあるのか?」


「う、うん……少し話たいことがあるの……夜よかったら少しだけ私と会ってくれる?」


 まぁ話だけなら良いか……どうせ外には出るわけだし。

 にしても話ってなんだろ?

 想像も出来ないな……。

 まさか、俺みたいなブサイクが井宮と仲良くしているのを許せないから、井宮と一緒に居るのはやめろとか言うのか?

 俺の予想だと、高城は井宮と仲良くなって、自分の学校での地位を更に上にあげようとしているからな……俺という存在がマイナスなのかもしれない。


「まぁ、良いけど。手短に頼むぞ」


「うんわかってる……じゃぁ私は行くね」


「お、おう」


 高城はそう言ってクラスの女子達の元に戻っていった。

 その後のレクリエーションで俺はそこまで大した活躍はしなかった。

 まぁ、隠れて逃げて隠れて逃げての繰り返しだった。

 結局俺たちのクラスは今回負けてしまったが、結果は二位でビリにはならなかった。

 




「はぁ〜今日もつかれた〜」


「俺もだよ……」


 二日目の日程もすべて終わり、俺達は夕食を済ませ今は風呂に入っていた。

 昨日同様に施設内の風呂に入っているのだが、ウチの男子は今日も女子風呂を覗けないかと必死だ。


「お前は行かなくて良いのか?」


「そんな気分じゃない……」


 俺の隣の英司が昨日はそれこそ先頭に立って覗きをしようとしていたのに、今日は大人しく風呂に浸かっている。

 一体どうしたのだろうか?

 まぁ、英司だからどうでも良いけど……。


「なんか俺……社会に出ても結婚出来ないかも……」


「牢屋で石城先生に何を聞かされたんだよ……」


「お前も聞けば分かるよ、人生って勉強やスポーツが出来るだけはだめなんだな……」


 英司は英司で苦労したようだ。

 

「そういえば圭司知ってるか?」


「何がだ?」


「この後にあるウチの学校の伝統行事」


「伝統行事? なんだよそれ?」


「まぁ、お前は知らないだろうと思ったよ、仕方ないから俺が教えてやる」


「いや、別に……」


「良いから聞け」


「なんでだよ……」


 そう言って英司は話始めた。

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