第53話 宿泊学習編30

「いや、さっさと逃げろよ」


「そういうわけにはいかない! それに君との勝負もまだついていないからね!」


「勝負って……あぁ……」


 俺は一日目の事を思い出す。

 まぁ、確かにあれは俺が悪かったしなぁ……。

 少しくらい付き合ってやった方が良いのか?

 でも……絶対面倒臭いよなこいつ……。


「さぁ! 昨日決着をつけようじゃないか!」


「決着って……別にそんなのつける必要ないだろ。面倒だし」


「うるさい! 決着を付けないと、僕は彼女に告白出来ないんだよ!!」


 いや、もうそれを井宮の前で言ったら告白と同じだろ。

 面倒な奴に井宮も目を付けられたもんだ。

 こいつ、イケメンだけど性格で絶対損してるよな。


「さぁ! 勝負だ! 僕を捕まえて見ろ!」


 何そのクソダサい勝負?

 まぁ、ゲームのルール上仕方ないけど。

 仕方ない、こいつが見えなくなるところまで逃げたらとんずらするか。

 まぁ、あいつはクラスの他の奴が捕まえてくれるだろう。


「よしわかった、じゃあお前はさっさと逃げろー、俺は10数えてから行く」


「なんだと! ハンデのつもりか! 男の勝負にそんな物は不要だ!」


「わかってねぇなぁ〜、こういう場合は追われる側の方が不利なんだよ、これくらいのハンデがあってようやく対等になるんだ」


「なるほど……確かに追われる立場と追う立場ではハンデがあるか……わかった! じゃあ俺は逃げる! お前は10数えてから追いかけて来いよ〜!」


「おう、任せろ〜」


 そう言って最上は消えて行った。


「追いかけるの?」


「まさか、このまま逃げるぞー」


「だと思ったわよ……」


 俺はそう言って、井宮と共に最上が行ったのと反対方向に向かって歩いて行く。

 

「なんか少し可愛そうじゃない?」


「なんだ? あいつからの熱烈なアプローチのせいであいつが気になり始めたのか?」


「それは絶対ないわ」


 やっぱりあいつ、可愛そうなやつかもしれない。

 今度会ったら優しくしてあげよう。

 そんな事を考えながら道を進んでいると、今度は一組(泥棒)の生徒二人と遭遇してしまった。


「いたぞ!!」


「い、井宮さんと前橋だ!!」


「マジかよ! ゴールデペアかよ!」


「お、俺達には荷が重すぎる……ここは一旦引いて援軍を……」


「馬鹿野郎!」


「ぐはっ!!」


 遭遇した一組の男子が弱音を吐いていたもう人の男を殴る。

 いや、なんか始まったんだけど……。


「俺たちもあいつらも何も変わらない人間だ! 化け物を相手にしているわけじゃない! きっと正気はある!!」


「た、隊長!」


 隊長?

 二人だけなのに?

 俺達は一体何を見せられて居るんだ。


「俺……この戦いが終わったら、同じクラスの関本さんに……告白するんだ!」


 なんか死亡フラグまで立ったぞ。

 何なんだコイツら……。

 てか、今なら逃げれるし逃げちまおう。


「井宮、行こうぜ」


「そうね……」


 井宮もなんだか呆れ顔だった。

 まぁとりあえず、夜の告白上手くいくと良いな。

 俺は心の中でそう言いながら、井宮と共に二人の前から姿を消した。


「なんなんだよ、ウチの学校ってまともな奴居ないの?」


「アンタがそれを言う?」


「え?」


「それよりも、状況ってどうなってるのかしら? もう結構時間経つけど、結構捕まっちゃったりしてるのかしら?」


「ウチのクラスも濃いキャラの奴が多いからな、そう簡単には捕まらないだろ」


「キャラとそれ関係ある?」


 とにもかくにも、現在何人が捕まったのかがわからなければ動きようがない。

 俺は英司に電話を掛け、分かる範囲の状況を聞くことにした。

 電話を掛けて直ぐに英司は電話に出た。


「お、英司か?」


『圭司か、どうした? 何かあったのか』


「いや、今のうちのクラスの状況が知りたくてな……お前の分かる範囲でいい、現在の状況を教えてくれ!」


『そうだな、とりあえず俺は今捕まって……石城先生の学生時代の口を延々聞かされてる』


「え?」


『酷い地獄だ……早く俺を助けに来てくれ』


「お前以外に捕まってる奴は?」


『いや、まだ俺だけだ。それよりはや……』


 俺は電話を切った。

 まぁ、英司なら大丈夫だろう。

 石城先生の愚痴にも耐えられる。

 他に捕まってる奴が居たら助けにも行こうと思ったが、英司一人なら良いや。


「どうだった?」


「とりあえず馬鹿一人以外は無事みたいだ、こうなると一回陣地に戻って見るのも手かもしれないな」


「でも、池内君は三組を捕まえに行ってるかも」


「うーん、正直面倒だから俺は捕まって先生の口を聞き流しながら、檻の中でスマホでも弄ってようと思ったんだけど……相手が石城先生じゃぁなぁ……」


 一日目に色々あったから気まずいし、何より怖い。

 なので俺は絶対に捕まりたくない。


「井宮、このまま二人でどっかに隠れてやり過ごさないか?」


「は、はぁ!? な、ななな何を行ってるのよ!」


「だって俺疲れたし、それに今回は別に指示を出す役じゃないし〜二人でスマホゲーでもしてようぜ」

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