第52話 宿泊学習編29

「ちょっと!」


「ん?」


「……ねぇ!」


「あ、井宮」


 三人が揉めている間に、草かげから井宮が俺の元にやってきた。


「何やってんのよ! 早く逃げるわよ!」


「お、おう……」


 井宮はそう言って俺を草かげの方に誘導する。

 三人の女子生徒はそれに全く気がつかず、ずっと揉めていた。


「私よ!」


「私!」


「抜け駆けは許さない!」


 俺と井宮はそんな三人の女子生徒に気が付かれないようにこっそり草かげから逃げ出すことに成功した。


「悪い、ありがとう」


「別に良いわよ……」


「しかし……やっぱり俺って嫌われてんだな……」


「さっきのあの状況からなんでそうなるのよ」


「だって……あの三人は俺のキャップが汚いと思って押し付け合って……」


「どんな頭をしてたらそうなるのよ……まったく、アンタは本当に拗らせてんだから」


「俺……ちゃんと髪洗ってるんだけどなぁ……」


「はいはい、わかったからさっさと逃げるわよ」


 はぁ……これだから女子は嫌なんだ。

 俺みたいな陰キャボッチには冷たい。

 そう考えると井宮はやっぱり良いやつなのかもしれないな……。


「井宮」


「何よ」


「お前って良いやつだったんだな」


「いきなり何よ、気持ち悪い……」


「ごめん、やっぱりさっきの発言なしで」

 

 気持ち悪いなんて言わなくて良いじゃん!

 俺は今、女子から腫れ物みたいな扱われて傷ついてるのに!!


「……ね、ねぇ」


「ん? なんだ? 気持ち悪いんじゃないのか?」


「いや、たった一言で引きずりすぎでしょ……私が打ったとこ大丈夫?」


「え? あぁ、別に腫れたりとかしてねぇし大丈夫だけど」


「そう……なら良いけど」


 もしかして井宮は昨日の事を気にしているのか?

 正直、別に俺はもう気にしてないし、井宮もあまり気にしないで欲しい。

 だって、終わったことだし、今更あーだこーだ考えても仕方ないだろう。

 それなら、喧嘩する前の状態に戻ってもらった方が、俺としては一番面倒くさくなくて嬉しいのだが……。

 

「あぁ……昨日のことはもうお互い気にしないようにしないか? 色々考えるの面倒だし」


 なんか気まずいし……。


「……言ってくれるのは嬉しいけど……でも打ったのは私だし」


「さっきお前も言っただろ? 両方悪かった! これで良いだろ? そう言ったお前がなんでまだ気にしてるんだよ」


「べ、別に気になんてしてないわよ……」


「バリバリ気にしてるじゃねぇかよ……まぁ、良いや。とにかく逃げようぜ、ここで捕まったら、先生の愚痴を一日聞く羽目に鳴っちまいそうだし。


「それもそうね、でも皆はどうなったかしら?」


「まぁ、なんとかやってるだろ。とりあえず、俺達は一応二人だし、警察の三組のやつを捕まえに行くか」


「そうね、確か三組の陣地はあっちだったわよね?」


 なんて話を俺と井宮がしていると、木の陰から黄色いキャップを被った三組の生徒が一人姿を表した。


「き、君は!!」


「あ……」


 俺はその生徒を目にした瞬間、捕まえる立場でありながら、今直ぐこの場所から全力で逃げ出したくなってしまった。

 恐らくだが、隣に居る井宮も同じだろう。

 なぜなら、出てきた三組の生徒がよりによってあの、最上吉秋だったからだ。


「まさかこんなところで会えるなんて! 井宮さん!」


「うっ……」


 そう言いながら井宮に近づいていく最上。

 そっか、確かこいつ井宮の事が好きだったんだな。


「井宮、こいつは放ってあっち行こう」


「そ、そうね」


「待ちたまえ!」


 なんで呼び止めるんだよこいつは……。

 わかりやすく見逃してやろうとしてるのに!

 てか、関わりたくないんだよ!

 こいつ絶対面倒だから!!

 俺はそんな事を考えながら、ゆっくり最上の方を向いた。


「なんだよ」


「君たち二組は、僕ら三組を捕まえる役職だろ? 良いのかい? ここに獲物が居るのに!」


 そう言いながら両手を広げる最上。 

 いや、キモいから捕まえたくない。

 てか、絶対関わったら面倒だから関わりたくない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る