第51話 宿泊学習編28
「よし! まずはさっき言ったとおりクラスの半数は攻めに行くぞ! 残りはとりあえず待機だ!」
半々に別れて攻めと守りに分かれる作戦か。
戦力は半分になるが、確かに二手に別れた方が作戦も出しやすいな。
でも、こういう場合はもう一方の方にもリーダー役を配置しておくのがゲームだと常識だけど……。
「頼んだぞ! 九条!」
「任せておけ」
なるほど、守りの方は井宮派の九条に頼んだのか。
サッカー部の九条なら、場面を見てクラスメイトに指示を出せるだろうし適任だな。
俺はそんな事を考えながら、陣地である広場を出て森の中を進んでいく。
この施設には三箇所の広場がある、一つは俺たちが居た広場で一番施設から近い。
そして後の2つはそこから離れたところにあり、広々とした散歩コースで繋がっている。
「しっかし、どろ刑なんて何年ぶりだ?」
「小学生以来だからな」
「私いつも捕まってたかも」
歩きながら他の奴らはドロ刑話しに華を咲かせていた。
まぁ、確かに本来は小学生時代にやる遊びだ。
懐かしいと言う感情を持っても不思議ではないだろう。
まぁ、俺は友達とか居なかったからやった事無いけど。
そんな事を考えていると、早速前方から一組の奴ら(泥棒)がやってきた。
「いたぞぉぉ!!」
「捕まえろぉぉぉぉ!!」
「身ぐるみはがせぇぇえぇ!!」
なんか泥棒ってよりも山賊って感じだな……。
追いかけて来る泥棒達(一組生徒)に反応し、池内が指示を出す。
「各自各々逃げてくれ! 一人になったらとりあえず陣地に戻るんだ! 二人以上なら警察を捕まえに行ってくれ!」
「おう!」
「任せろ!」
「いくぜぇぇ!!」
そう行って意気揚々と逃げて行く男子三人。
「なんだコイツら」
「あっ……」
「こっち向かって来たぞ」
「え?」
「はい、確保」
「はい?」
あっさり目の前で捕まった。
いや、あんな張り切っておいて瞬殺かよ……。
そんな事を考えていると、俺の方にも女子が三人迫っていた。
くそっ!
陰キャボッチはスポーツが苦手とでも思われたか!?
「ま、前橋君に触れる!!」
「しかも合法的に!!」
「わ、私! 勢い余って抱きついちゃうかも!!」
な、なんだろうか……この殺気とも違う何か恐ろしい感覚は……。
彼女達はなぜあんな必死になって俺を追いかけて居るのだろうか?
「は、早く別なやつのとこに行ってくれねぇかな……」
女子なので男子よりは足は遅いのだが、三人も居ると巻くのが大変だ。
俺はいつの間にか一人になってしまい、しかも壁際まで追い詰められてしまった。
「ま、まずいな……」
捕まったら、先生の口を聞かなきゃいけないし……それは絶対に避けたいな。
先生の愚痴なんか聞かされても俺らどんな反応すればいいかわからないし。
「うふふ……前橋くんここまでよぉ〜」
「はぁ……はぁ……前橋君って……け、結構筋肉質なんだね……」
「不可抗力は仕方ない不格好力は仕方ない不可抗力は仕方ない!」
なんかこの女子三人怖いんだけど……。
なんで俺を捕まえるのにこんな必死なんだよ!
もっと別なやつを狙ってくれよ!
「くそ……」
これは完全に詰んだかもしれない。
後ろは壁だし、相手は女子とは言え三人だ、どう考えても逃げ切れるとは思えない。
ここは諦めて大人しく捕まって、助けられるのを待つしかないか……。
「はぁ……わかった、俺の負けだ。連れてけ」
「え? あ、諦めるの?」
捕まえようとしてきた女子の一人がそう訪ねてくる。
「まぁ、この状況じゃ仕方ないからな、ほら俺のキャップを取れよ」
今回のルールではキャップを取られたら捕まったとみなされる仕組みだ。
逆に檻の外にあるキャップを味方に渡す事が出来たら、捕まった味方を救出する事が出来る。
俺はキャップを三人に差し出す。
しかし、なぜか三人はキャップを受け取ろうとしない。
「どうした?」
「えぇ……捕まえようとして自然にボディータッチしたかったのに……」
「こ、これじゃあキャップを受け取って終わりじゃない!」
「不可抗力にならないじゃない!!」
さっきからコイツらは何を言っているんだ?
捕まえるならさっさとして欲しいのだが……。
「あ、あのさ……一回逃してあげるから、その上で私達が捕まえる形でも良い?」
「はぁ? なんでそんな面倒クセェことをしなきゃいけねぇんだよ」
「だ、だって!」
「あ、あの……」
なんだコイツら?
俺はキャップを渡してるのに……。
はっ!!
も、もしかして陰キャボッチの俺の被っていたキャップなんて汚くて受け取れないってことか!?
うわぁ……傷つくなぁ……。
髪は毎日洗ってるから綺麗だと思うんだけど……。
「もう、何でも良いから早くしてくれ……」
「じゃ、じゃぁ私がキャップを……」
「ま、待ってよ! それは私が!」
「いえ、私が受け取るわ!!」
なんか今度は誰がキャップを取るかで揉め出したぞ……。
だから別に汚くなんてねぇよ!!
はぁ……なんでレクリエーションでこんな目に会わなきゃいけないんだ。
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