第46話 宿泊学習編23

 俺はそう言って、井宮に上着で作ったロープの場所まで案内し、崖の上に登る。

 強度が少し心配だったが、無事俺と井宮は上に登る事が出来た。

 さて、さっさとテントに帰って寝よう……今日は疲れた。


「よし、これで全員だな、さっさと戻ろうぜ」


「あ、あぁ……」


 俺は池内たちにキャンプ場までの道のりを案内し、キャンプ場に戻った。

 もう日付を回ってしまい、早く寝ないと明日の朝起きられなくなりそうだ。

 はぁ……今日はなんだか一日疲れたな……。


「な、なぁ……前橋」


「ん? なんだ?」


 キャンプ場に到着すると、池内が俺に話かけたきた。


「お前はなんでそんなに色々出来るんだ? 咄嗟の判断や状況を理解する力が強い……どうやったらお前みたいになれる?」


「なんだよ急に」


 気持ち悪いな……俺みたいになりたいのかこいつ?

 俺みたいな陰キャの効率厨にでもなりたいのか?

 こいつはアホなのか?


「頼む、教えてくれ! 俺は井宮さんが崖に落ちた時も何も出来なかった……遭難したときも皆に何も指示を出せなかった」


「……なんだ? お前はクラスのリーダーポジでも狙ってるのか?」


「そうじゃない! 俺はこの学校の生徒会長になりたいんだ!」


「おぉ、俺の予想を遥かに超えやがったな……」


 いや、そのままのお前で十分になれるよ。

 なんで生徒会長になりたいのに、俺みたいになりたいんだよ、俺なんて信頼ゼロだし友好関係も全然だぞ?

 むしろ生徒会長に不向きな人材一位かもしれないぞ。


「俺は今日一日、お前をずっと見てた……レクリエーションのときも、飯を作るときも、そしてさっきも……心の中ではお前は顔だけのやつだろうって思ってたけど……お前は何でも出来て、皆からの信頼なんかも簡単に勝ち取って……勝てる気がしなかった」


 ん?

 なんだこいつは、一体誰の話をしているんだ?

 まぁ、俺でないことは確かだな、俺信頼とか一切無いし。

 要するにあれか、池内は皆から頼られたいのか?

 良くそんな面倒な役回りに回ろうとするな……俺だったら絶対に嫌だ。


「はぁ……お前が何を言ってるか、よくわかねぇけど……とりあえず、自分で考えて見れば良いんじゃねぇーの?」


「え……」


「レクリエーションのときだってそうだ、お前はなんであの場で自分が大将をやるって言わなかった? なんで俺に丸投げした?」


「そ、それは……その方が勝率も高いだろうし……」


「お前は自分がクラスを勝たせられると思わなかったのか?」


「そ、それは……」


「はっきり言っておくが、俺は別に特別頭も良くないし、運動だって特別出来るわけじゃない、大将なんてお前がやっても勝てただろう」


「お、俺は……無理だ……前橋みたいにうまく皆に指示を出せない」


「まぁ、そう言ってるうちは、お前は駄目だろうな」


「え……」


「池内、少しは自分に自身を持て」


「そ、そんな事を言われても……自信なんて」


「あのなぁ……大勢の前で話が出来る奴なんてそう居ない、その時点でお前のスペックは結構高いと思うぞ」


 少なくとも俺よりは高いだろうな。

 あと、俺は根に持つぞ池内。

 俺を大将に指名した時の事を忘れてないからな!

 これは次は絶対にそういう役回りをお前がやれと言う、俺からの警告でもあるんだ。


「で、でも……俺は前橋みたいにはなれない……」


「バカか、誰が俺みたいに馴れって言ったよ。お前はお前の思う通りにやれ、誰かを手本にしないと、お前は何も出来ないのか?」


「俺の……思う通りに……」


「わかったら、さっさとテントに戻って寝るぞ。俺はもう疲れた」


 俺はそう言って池内より先にテントに戻る。

 あぁ、マジで眠い……。

 

「ん?」


「よぉ」


 テントに戻ると、先に英司が帰っていた。

 

「正直ヒヤヒヤしたぞ、お前がまた中学の時みたいになるかと思って」


「心配させたようで悪かったな、でも俺は別に中学の頃のあの境遇に戻っても何ら問題は無い」


「そういう事……言うなよ、俺はあんなお前を見たかねーんだよ」


「何気持ち悪い事言ってんだよ……」


「少しは周りの空気を読め、バカが!」


「へいへい」


 そうやって適当に返事をするが、俺は心の中で英司に感謝していた。

 こうやって俺には叱ってくれる奴が居る。

 だから俺は、英司の事を唯一の友と呼ぶ。


「ありがとよ……」


 英司はそう言って寝袋に入り、俺に背を向けた。

 フッ……こいつめ……。


「やっぱりお前からそんな事を言われると気持ち悪いな」


「おいコラ! 人が礼を言ってるのになんて言い草だ!」


「あぁ、それそれ、お前はそっちの方がしっくりくる」


「しっくりくるってなんだテメェ! お前なんて俺が居なかったらただのボッチだろうが!」


「あ、てめぇ! 言ってはいけない事を言いやがったな!」


「うるせぇんだよ! 大体お前だけモテてずるいんだよ!」


 その後、池内が戻ってくるまで俺と英司の言い争いは続いた。

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