第45話 宿泊学習編22

「やっぱりか」


「あ、え? 前橋?」


「な、なんでここが?」


 俺が光の集まっているところに言ってみると、そこには案の定池内達が居た。

 まぁ、良かった。

 これで先生に怒られずに済むし、帰ってテントで寝る事が出来る。


「お前ら、やっぱり二次遭難しやがって……さっさと帰るぞ、帰り道はこっちだ」


「ま、まってくれ前橋! 実は井宮さんが……」


「え?」


 俺がそう言ってキャンプ場に戻ろうとすると、池内が俺を呼び止めた。

 話によると井宮が崖の下に落ちてしまったらしい。

 高さはそこまでなかったようで、下から井宮の声が聞こえては来るものの、下の様子が暗くて一切わからない。


「はぁ……全く……何をしてんだか」


「そ、そんな言い方ないでしょ!」


「そ、そうだぞ! 井宮さんは二人を心配して……」


「その結果、自分が一番危ない状況に落ってるだろうが」


「確かに……そうだけど……」


 全く、コイツらは気持ちや根性で何でも出来るとでも思ってるのか?

 そんなの出来る訳がない、少なくとも俺は何か裏付けが取れない限り、気持ちや根性論なんてものには頼らないけどな……。

 さて、どうしたもんか……幸いここらへんの崖はところどころに足場になりそうな場所もあるし、降りて助けに行くか?

 いや、でも降りれたとしても、どうやって井宮を上に上げる?

 下に上に登れる坂があるとは考えにくいし……。


「おい、男子」


「な、なんだよ」


「まだ何かあるのかよ」


「脱げ」


「「「「「………は?」」」」」


 この場に居る男子は俺を含めて六人、その六人の上着の袖を結んでロープにすれば、井宮を救出出来るかもしれない。


「良いから脱げ、井宮を助けたいんだろ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ前橋! 作戦が全然わからないのに、そんな事を言われても……」


「早くしろ、あんまり時間はねぇぞ、いくらここがキャンプ場とは言ってもクマや野犬なんかが居る可能性はあるんだ」


「た、確かにそうだけど……」


「わかったらさっさと脱げ、心配なんだろ?」


「あ、あぁ……」


「わ、わかったよ、でも何をする気だよ」


「ロープを作る」


「え?」


 俺はそう言って、自分の上着も脱ぎ六人分の上着の袖を結んでロープを作った、大体10メートルほどの長さになった、これなら下に届くだろう。


「よし、じゃあ俺がこのロープを持って下に降りる、お前らはロープを持っていてくれ」


「あ、あぁわかった」


「ま、待てよ前橋!」


 俺がそう言って下に降りていこうとすると、他の班の男子が俺に聞いてきた。


「なんだ?」


「さっきはあんな事を言ったくせに、なんでお前は俺たちを探しに来て、井宮まで自分で助けようとするんだよ!」


 まぁ、そう聞けれても無理はないか……さっき俺はこいつらに今の俺がしている行動と真逆の事を言ったしな……。

 なんでと言われても返答に困るが、純粋に先生に怒られるのが嫌だし面倒だからだ。

 早くテントに戻って寝たいし。

 まぁ、でも早く井宮を救出したいし、全部説明する必要もないか。


「面倒なんだよ」


「え?」


 あ、これだと説明になっていないか……。

 まぁ俺も心配してないなんて言ってないし。

 いいや、心配だからって言っとこ。

 それに………ゲームの中だけとはいえあいつも俺の友達だしな。


「誰も心配してないなんて言ってねぇだろ」


「ま、前橋……」


「前橋君……」


 あれ? なんでこいつら何も言い返さないんだ?

 さっきと言ってる事が違うだろ!

 とか言われるかと思ったんだけど……まぁいいや、さっさと井宮を助けに行こう。


「良いか? ちゃんと掴んでろよ、高校生二人分の体重は結構くるからな」


「わ、わかった!」


「前橋任せておけ!」


「お前………やっぱりかっこいいな!」


 なんだ、なんで今そんな事を言う?

 てか、ブサイクの俺にそんなからかい方は通じないぞ、もう言われ馴れてるからな。

 俺はそんな事を考えながら、下に降りて行った。

 崖の下は恐らく6メートルほどだった、俺は下に降り井宮を探す。

 

「おい」


「え……な、なんで前橋が……」


「色々あってな、良いからさっさと帰るぞ、俺は早く帰って寝たい」


 井宮はすぐに見つかった、降りた直ぐ近くで座っていた。

 動いてなくて良かった、ここから更に井宮を探すなんて面倒すぎるからな。


「あ、ありがと……」


「いいよ、そういうのは、早く上がるぞ。足は大丈夫か?」


「うん……捻ったりとかしてないから……」


 顔をそらしながらそういう井宮、先程俺にビンタしたし、気まずいのかもな。

 別に俺は気にしてないのだが……。


「ねぇ、なんで来たのよ……アンタの言うとおり先生に言えば一番解決が早いじゃない」


「お前もそれを聞くのかよ……」


 はぁ、また答えるのが面倒だな、早く帰って寝たいし、同じように答えておけばいいだろ。

 さっきも大丈夫だったし。


「心配してないとは行ってないだろ、それに……ゲームの中とは言え、おまえは一応俺にとって特別な存在だからな」


「え……」


「納得したか? ほらさっさと行くぞ」


「あ、う…うん……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る