第42話 宿泊学習編19



 さて、そろそろ寝ようかな?

 なんて事を俺が考えていたときだった、もの凄い勢いでテントのジッパーが開き、英司が中に入ってきた。


「圭司! 大変だ!!」


「あぁ? なんだよ、人がせっかく眠りにつこうとしてんのに……」


「とにかく起きてくれ! 緊急なんだ!」


「それってイベクエよりも大事?」


「大事なことだよ! 良いから起きろ!」


「わかった! わかったから寝袋を引っ張るな!」


 無理やり俺を起こす英司。

 英司がここまで取り乱すのは珍しい、一体どうしたんだろうか?

 俺が眠たい目を擦ってテントの外に出ていくと、そこには井宮と池内、そして同じクラスの男女が6人集まっていた。


「どうしたんだ? もう消灯時間はとっくに過ぎてると思ったが?」


「前橋、大変なんだ、高城さんと美佳が……」


「は? その二人がどうかしたのか? そういえば居ないけど」


 俺は一番近くに居た池内に話を聞いた。

 もう12時になろうと言うのに、二人がテントに帰って来ないので井宮が二人が行ったと思われる女子達のテントに二人を迎えに行ったらしい。

 しかし、二人はそのテントには来ておらず、行方不明になってしまったのだと言う。


「マジかよ」


 確かに緊急事態だった。


「トイレとか探したのか?」


「あぁ、さっき皆でここらへんを探してきた。でもどこにも居なくて……」


「………一つ良いか?」


「なんだ?」


「なんで、俺を起こす必要があった?」


「え………いや、同じ班だし……」


「その前に先生のところに行くのが先決だろう、俺なんかを起こしてどうするつもりだった?」


「それは、前橋の頭の回転の良さを活かして、探すのに協力してもらおうと……」


「バカかお前」


「え………」


 俺は淡々と池内に話す。


「俺を起こす前にまず大人を起こせ、こんな真っ暗な山の中で二人が迷子……いや遭難だ。本当に心配ならまず先生達を起こして対処するのが一番だろ?」


「そ、それは……まずは俺たちで対処してだめだったら……」


「その間に二人がクマにでも襲われたらどうする」


「そ、それは……」


「わかったら俺のところじゃなく、先生のテントに行け。それであとは大人に任せろ」


 俺がそう言うと、その場の空気は凍りついてしまった。

 あぁ……またこの感じか……。


「お、おい圭司! 何もそこまで言わなくてもいいだろ? それにもしかしたらひょっこり帰ってくるかもしれないし……俺達も探さないと……ほら、仲間なんだし?」


「仲間? 英司、お前は俺の事を理解してくれていると思ったんだが?」


 俺がそう英司に良い、話を続けようとすると英司が俺に耳打ちをする。


「それ以上言うな! お前はこのクラスでも孤立する気か!!」


 英司の目は笑っていなかった。

 いつもおちゃらけているこいつのこういう目を見るのは久しぶりだ。

 だが、これは俺のもっとうであり変えることのない俺のポリシーだ。

 ちょうど良い機会だ、こいつらにも俺が何を考えているか教えておこう。

 そうすれば、こんな風に俺を頼るなんて馬鹿な真似はしないはずだ。


「俺にとって、クラスメイトなんて者は同じ学校に通って同じクラスに居るだけの他人だ」


「他人って……前橋……お前それは!」


「池内、覚えておけ俺はこういう人間だ、面倒な事が大嫌いで目立ちたくない、そして一番嫌なのは……お前らクラスメイトと馴れ合うことだ」


「前橋!!」


 俺がそう言うと、英司は俺の胸ぐらを掴んで言う。

 

「また中学の頃みたいな生活に戻りたいのか!! いい加減にしろ!!」


 俺が英司を唯一友達と呼ぶ理由はこういうところにある。

 俺の事をちゃんと起こってくれる。

 自分のためではなく、相手の為に心から怒れるこいつだから俺は唯一の友と呼んでいるんだ。

 だが、ここは譲れない。


「わかったら、さっさと先生のテントに行け、俺は寝る」


 俺は英司の手を振りほどき、そう言ってテントに戻ろうとする。

 しかし、俺の胸ぐらを今度は別な誰かが掴み、俺の頬に平手打ちをした。

 一瞬見えたその相手は井宮だった。


「うっ……」


「あんた……そんなに一人が良いの……」


 俯き淡々と話す井宮。

 そんな井宮に俺は言う。


「あぁ、そうだ。他人は信用出来ない」


「同じ班員でしょ……一緒にテント立ててカレー作って……その班員が遭難してるのよ! 心配じゃないの!!」


 そう叫ぶ井宮の目には涙が浮かんでいた。

 

「俺が心配して、二人は見つかるのか?」


 そう俺が言った瞬間、井宮は再び俺の頬を叩いた。


「最低!!」


 彼女はそう言って走りだした。


「井宮さん!!」


 英司以外の残りの奴らは井宮を追ってそのまま言ってしまった。

 

「………あれはお前が悪いぞ」


「………俺は間違ったことなんて言ってない」


「頭冷やせ」


 英司もそう言い、その場を離れて行ってしまった。

 俺は何も間違ったことなど言っていない。

 先生に言って、大人に探してもらうのが一番簡単で一番良いのだ。

 

「……でも、待てよ……そうしたら、連帯責任とか言って、俺まで先生から説教くらいそうだな………」


 俺は立ち上がり、テントの中に戻って懐中電灯とスマホを持って外に出る。


「面倒なのは嫌いだ」


 俺は懐中電灯を持ってキャンプ場を歩き始めた。

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