第41話 宿泊学習編18

 悩みなんて言うほどのものじゃない。

 ただ、この問題は俺が勝手に結論を決めただけだ。

 その結果が今の俺だ。


「お前が気にするようなことなじゃない……ただ、友人関係とか恋人関係とか面倒になっただけだ」


「そんなに?」


「あぁ、友人と言いつつも影ではそいつの悪口を言う奴、恋人と言いつつも平気で他の女や男に言い寄る奴、人間っていうのはそういう生き物なんだよ」


「皆が皆そうじゃないと思うけど?」


「そんなのは知ってる、でも俺はもう嫌なんだよ……勝手に期待して、勝手に裏切られるのは……」


 もうあんな思いをするのはコリゴリだ。

 それなら俺は一人で居る方が気楽なのだ。


「もう良いだろ? そろそろ英司達が帰って来るから、お前も自分のテントにもどれよ」


「はいはい、わかったわよ」


 俺がそう言うと、井宮は立ち上がってテントの入り口のジッパーを開けて外に出て行った。


「ねぇ」


「なんだよ」


「アンタ、寂しいんじゃないの?」


「は?」


「……何でも無いわ、忘れて……じゃぁおやすみ」


 井宮はそう行ってテントを去っていった。


「俺が寂しい?」


 あいつは何を言っているんだか、寂しいわけが無いだろう。

 俺は一人の方が気分が楽で、楽しく過ごせるのだから……。



「………」


 テントに戻る道中、私は先程の前橋の顔を思い出していた。

 どこか寂しそうで悲しそうなあの表情……。

 あの言葉からも小学生時代に何かあったのは間違いないだろう。

 でも一体何があったのだろうか?

 恐らく今の前橋はしつこく聞いても教えてくれないだろう。

 私はテントに戻り、寝袋に入ってスマホを操作する。


「………あいつ、本当に一人が好きなのかな?」


 私はそんな事を考えながら、目を閉じる。

 まだ眠くないはずなのに、なんだかこのままじっとしていたら眠れそうだ。


「そういえば美佳達遅いわね? 何をしてるのかしら……」


 時刻はもう23時近くになっていた。

 話では23時前には帰って来ると言っていたのに……もしかして話が盛り上がってるのかな?


「一応メッセージ入れとこ……」


 私は美佳にメッセージを入れ、そのまま待ってみることにした。


「まさか、山の中で迷子とかになってないでしょうね? まぁでもしっかり者の高城さんもついてるし、そんなことはないか」


 そう思いながら私は二人の帰りを待った。





 私、高城優奈は今人生最大のピンチに直面していました。


「うゎぁーん!! ここは一体どこなのよぉぉぉ!!」


 そう声を上げるのは同じ班の美佳ちゃんだ。

 話はつい一時間ほど前に遡ります、私達二人は同じクラスの友達の班のテントに行こうと、二人で自分たちのテントを出ました。

 しかし、美香ちゃんが途中トイレに言ってから行こうと言い出し、私達は施設近くのトイレにより、友達のテントに向かいました。


「まさか道を間違えてたなんて……暗くてわかりづらかったから気づかなかった」


「スマホも県外だし……私達どうなっちゃうのよぉ!!」


 そう、私達は友達のテントに向かう途中、道を間違えて山の奥に入って行ってしまったんです。

 スマホも県外で助けも呼べず、私達は現在途方にくれています。


「こういう時って動かない方が良いのかな?」


「ど、どうなんだろ? 私も遭難なんて始めてだからよくわからない……」


「いや、よく遭難してたら大変だよ!」


 辺りは真っ暗でスマホの明かりしかありません。


「どうしよう……遭難したら高いところに登れって聞くけど……」


「こんな真っ暗の中で高いところに登っても気づく人なんていないよね?」


「………もしかして私達………相当ヤバい?」


「うん………かなり」


 美佳ちゃんはだんだん事の重大さに気が付き始めたようだ。

 

「うわぁぁぁぁん! 嫌だよぉぉぉこんなところで死にたくないよぉぉぉ!!」


「い、いや、まだそんな死ぬと決まったわけじゃ……」


「でもスマホも使えない、帰り道もわからない! このままじゃ私達ここで餓死しちゃうよ!」


「落ち着いて! 私達が居なくなったことには井宮さんが気がついてくれるわ、それに朝になれば道も明るくなってキャン場に帰れるよ!」


「でも、そんなことになったら絶対先生から怒られるよね?」


「まぁ、それは仕方ないね」


「うわぁぁぁん! それも嫌ぁぁぁ!!」


 どっちも嫌なんだ……。

 でも、このままじゃ本当に朝を待つしか方法がないわ。

 無闇に山の中を進むのも危なそうだし、ここは朝までどうやって過ごすかが重要ね。

 幸い、7月のはじめだけあって気温はそこまで低くないし、風邪を引く心配はなさそうだけど……ここは山の中だしクマとか野生の動物に襲われ無いとも限らない。

 

「はぁ………前橋君」


 こんな時、前橋くんだったらどうするんだろう?

 私はふとそんな事を考えてしまった。

 こんなときまで前橋君の事を考えるなんて、私は馬鹿なのだろうか……。

 でも、こんな危機的状況だからこそ、好きな人に助けに来てほしいと願ってしまう。

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