第39話 宿泊学習編16



 寝る前の一時間、俺達生徒の最後のレクリエーションが始まった。

 

「それではただいまから本日最後のレクリエーション企画を始めたいと思います」


 そう言って話始めたのは石城先生だった。

 広場に集められた俺たちは、寝る前に簡単な講演を聞くことになっていた。

 誰が来るのかも内容も定かではないが、一体誰がどんな話をするのだろうか?

 そこまで長くは無いと言っても早くテントで休みたいものだ。

 俺がそんな事を考えていると、石城先生は急に俺達の前に出てきて、椅子に座って話し始めた。


「はい、それでは今から人生の先輩である私から皆さんに向けて、人生と結婚の重要性についての講演を始めたいと思います」


 いや、先生がするの!?

 しかも何そのタイトル!

 絶対この人自虐ネタを言う気満々だよ!!

 俺の他にもそう思った奴は大勢いただろう、だってみんなタイトル聞いた瞬間頭下げたし。


「皆さんも知っての通り、先生は独身です」


 うわぁ……導入からキッツいなぁ……。

 あの人そんな話して精神的に大丈夫なのかな?


「先生は一年前に二十代というノリに載った婚期とお別れしました」


 大丈夫だよ先生!

 最近だと婚期は上がってるらしいから!

 

「皆さんも彼氏彼女の関係に興味がある事でしょう、一言先生から言っておきます……女子生徒の皆さん、男は顔でも性格でもありません、金を稼げるかどうかです」


 なんてリアルな話なんだ……女子生徒の大半が引いてるぞ。


「愛があればお金はいらない、貧乏でも良い、そんなのは綺麗ごとです。何をするにもこの世界ではお金が必要です」


 元も子もない!

 俺たちはまだ高校生なんだから、もっと夢を見させてくれ!

 

「まぁ、今もうちは顔だけの男を選ぶのも悪くないでしょう。高校生にお金は必要ありませんから」


 どや顔でこの先生は何を言ってるんだ?

 

「まぁ、偉そうな事を言っても先生は今彼氏もいない独身女性なんですけどねぇ~あはははは!!」


 笑えない……みんな怖くて笑えねぇよ!

 笑ったら絶対なんか言って来るよ、絶対面倒な事になるよ。

 なんだったら顔も合わせない方が良いよ!


「女子生徒の皆さん! 結婚は遅くとも二十代後半にはするべきです! でないと……でないと……婚活パーティーでは売れ残るんです!!」


 おぉ……実体験が入って来たぞ。

 

「皆さん、もしこの中に『私は一生独身でも良いかな?』とか言う考えを持って居る人が居るなら気を付けて下さい!! 孤独は……辛いんです」


 なんだろう、この説得力。

 誰も何も言えねぇよ……。


「皆さんはまだ高校一年生、まだまだ出会いがたくさんある年齢です。でも先生の年になるとそこまで出会いはありません! 今のうちに良さそうな男子には手を出しておきなさい! じゃないと……彼氏なんて欲しくても見つかんねぇーんだよ畜生!!」


 な、なんかとうとうキレだしたぞ……大丈夫か石城先生。

 てか、誰か貰ってやれよ……基本的には良い先生だと思うよ?

 まぁ、俺は絶対に嫌だけど。


「はぁー私も高校時代に戻りたい……モテてたあの時期が懐かしい……」


 先生って学生時代はモテてたんだ。

 まぁ、顔はそこまで悪くないしな……。


「つまり先生があなた方に言いたいのは!」


 そう言うと、先生はどこからか大きなフリップを取り出しみんなに見せつけるように前に出す。


「イベントは大事に!! イベント時は男女の仲が進展しやすいです! 学校行事はたくさんあります! 皆さんそれを大事にして先生のような三十路独身にならないようにしてください!」


 なんか先生泣いてないか?

 てか、なんで俺たちはこんな話を聞かされてるんだ?

 講習ってもっとなんかためになる話をしてくれるものじゃないのか?

 まぁ、ある意味ではためになってるが……。


「どうせこれから、みんな雰囲気に流されて、色々なところで告白ラッシュが始まるでしょうが覚えておいてください! 高校から付き合って結婚まで行く男女は限りなく少ないです!」


 いやそれ以上は言うなよ、ただのひがみに聞こえるから……。

 

「どうせ告って付き合って、数カ月で別れて、また別の誰かに告って別れて……学生の恋愛なんてその繰り返しよ!」


 あぁ、なんか先生どんどん素が出てきたなぁ……。

 誰だよこの人に講習させようって言った人は……ためにはなるけど人選ミスだと思うんだが……。

 結局メンタルに限界が来たのか、先生はそのまま泣き崩れてしまい、泣き崩れた石城先生を村上先生がなぐさめて連れて行った。


「はい、それでは皆さん、石城先生に言われた事を忘れないように自分の人生を歩んで下さい。以上で講習会を終わります」


 男の先生が真顔でそう言い、講習会は終了した。

 いや、そんな事を言われても……。

 おそらくこの場に居た生徒のほとんどがそう思っただろう。

 なんか石城先生の後悔と悔しさを話されただけのような気がするんだが……。


「……テント戻って寝よう」

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