第37話 宿泊学習編14



 風呂というのは良い、落ち着くし温かい。

 心が洗われる瞬間だ。

 俺は基本風呂は好きだ、一人になれるしゆったりすることが出来る。

 しかし……。


「おい! どっかに隙間穴無いか探せ!!」


「どこにも無いぞ!」


「じゃぁなんとかこの壁を超えるんだ!」


「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 こういううるさい連中と一緒に入るのは嫌いだ。

 まぁ学校行事だし仕方ないことではあると思うが、少しは静かにして欲しいものだ。

 こいつらさっきからどうやったら女子風呂を覗けるかで試行錯誤しまくっている。

 まぁ、学校行事のお約束というやつなのかもしれないが、今の時代はそれをやると普通に捕まるぞ。

 俺はそんなことを考えながら、端の方でゆっくり湯に浸かっていた。

 

「よし! それじゃあ肩車で!」


「まて! それだと下のやつは上の奴のあれが首筋に!!」


「そ、それは地獄だな……」


「じゃぁどうしたら……」


「誰か脚立とか持ってないのか!!」


 持ってきてるやつが居るわけねぇだろ。

 てかアホかこいつら、どんだけ覗きに必死なんだよ。

 いい加減諦めて今日の疲れを落とせよ。


「よぉ! 前橋!」


「あぁ? なんだよ」


 俺がゆっくり一人で湯に浸かっていると、野球部の八代がやってきた。

 

「隣良いか?」


「もう座ってんだろ。何かようか?」


「いや、お前に興味があってな!」


「悪いが、俺にそっちの趣味は無いぞ」


「ん? 趣味? なんの話だ?」


 あ、そういうネタが通じる奴じゃなかった。

 

「悪い何でもない、それで何か用か?」


「あぁ、今日の作戦は見事だったと言いたくてな! それに運動神経も結構良いし、帰宅部にしておくのが惜しい!」


「それはどうも」


「それでどうだろう? よかったら俺と一緒に野球部で甲子園を目指さないか!」


「断る」


「そうか、そうか! まずは見学に来るか!」


 え?

 何こいつ話聞いてる?

 てか、部活なんて入るわけないだろう、そんあことしてたらゲームのイベントも何も出来なくなっちまう。


「だから、悪いけど俺は部活に入る気なんてサラサラ……」


「そうだな、悪かった! まずは俺とキャッチボールをしてからだよな!」


「おーいお前耳ついてる? その両脇のはなんだ餃子か?」


 何かと思えば部活の勧誘か……俺なんかを勧誘するなんて、野球部もよほど人数不足らしい。


「やぁお二人さん」


「よう! 九条! お前も今日はすごかったな!」


「お前もな八代」


 今度はサッカー部の九条が俺の隣にやってきた。

 これで俺は陽キャと陽キャに挟まれてしまった。

 ヤバいなぁ……絶対話とかあわねぇよ……。


「何かようか? お前はあいつらみたいに女子風呂覗くのに必死にならねぇの?」


「あんなのいくらやったって無駄だ、俺は成功する可能性の低いことはやらない」


 高かったらやるんだなこいつは。

 

「ところで前橋、お前野球部がダメならサッカー部に来ないか? お前の反応の速さや的確な指示の出し方はきっとサッカーで役に立つぞ」


「いや、だから俺は部活は……」


「そうだ! 前橋はサッカー部ではなく野球部に入ると言っているんだ! 横取りはやめろ!」


「いや、野球部にもはいらねーよ」


 たく……野球部に続いてサッカー部も人数不足なのか?

 俺なんかよりも良い人材が居ると思うんだけどなぁ……。


「もったいない、それだけ運動が出来るんだ、何かやろうとは思わないのか?」


「別にお前らには関係ないだろ、俺の人生だ」


「まぁ、そうだけど……それにしても勿体ない!」


 いい加減こいつらどっか言ってくれないかな?

 そろそろ一人でゆっくりしたいんだけど。


「そういえば話は変わるけどよ、お前らのテントにあれ来たか?」


「あ? あれってなんだよ」


「ほら、一年女子人気ランキングの投票用紙だよ。三組の奴がさっき来て置いてってさ」


「あぁ、それなら来てたな! 九条は誰に入れたんだ?」


「俺はもちろん井宮だな。あ、勘違いすんなよ、別に惚れてるとかじゃなくて、普通に可愛いと思ってるだけだぞ」


「なんで俺にそんなこと言うんだよ」


「いや、だってお前の彼女じゃねぇの?」


「なんでそうなってんだよ、ちげーよ」


 九条の言葉に俺はため息を吐きながらそう答える。


「そうなのか? 俺もてっきり付き合っているものだと思ってたけど」


「なんでそんな勘違いが広まってるんだよ……」


 まさか九条や八代にまでそんな事を言われるとは……。


「俺は高城さんに入れたよ」


「八代は高城派か」


「井宮さんも確かに可愛いと思うけど、俺は高城さんだな」


「まぁ、あとは個人の好みってところもあるからな……それで前橋は?」


「俺のところには投票用紙なんてきてねぇよ」


「なんだ、まだ来てないのか、それじゃあ誰に入れるつもりなんだ?」


 誰に入れると言われても……入れたい奴が居ないしな。

 八代も井宮に入れるって言ってたし、適当にそう言っておくか?

 いや、でもそれでまた変な誤解を生むの面倒だしなぁ……。

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