第35話 宿泊学習編12

「すげーな、前橋ってなんでも出来るんだな」


「ゲーマーのくせに結構器用だな」


「ゲーマーは関係ねぇだろ」


 お前らこそなんで陽キャなのに火も起こせないんだよ。

 まぁ、女子は流石に大丈夫だろう、野菜を切るだけだしそんな間違う事なんて……。


「井宮さん、玉ねぎってどれくらい剥けば良いのかな?」


「それより、ぶつ切りってこんな感じ?」


 なんだその怪しい会話は……。

 俺は嫌な予感がして、女子達の方を見に行った。

 皮を剥きまくった玉ねぎ、ぶつ切りというにはあまりにも大きすぎる具材。

 こいつら……全く料理出来ねぇのかよ……。

 

「井宮」


「え? あぁ、火起こし終わった?」


「終った? じゃねぇよ、なんだよこのドデカいにんじんは!」


「いや、ぶつ切りって言うから」


「アホか、これは大きすぎるだろうが!」


「食べ応えがあって良いんじゃない?」


「考え方が雑すぎるわ!! それと高城!」


「はい!?」


「玉ねぎはこの茶色の部分だけ剥けばいいんだよ! 後は切ってくれ!」


「わ、分かった」


 はぁ……この調子だともう一人の女子……えっと名前なんて言ったけ? 

 あいつも何かとんでもないことをしている可能性が……。

 そう思いながら恐る恐る、もう一人の女子の方を見てみると。


「え? 何?」


 ちゃんとしてる……一番不安だった彼女の食材の切り方だけ、綺麗で整っていた。

 俺はそれを見ただけでなんだか感動してしまった。


「お前……きっと良い奥さんになるぞ」


「ふぇっ!?」


「え!?」


「んな!?」


 いや、この子はきっと良い奥さんになる。

 女子は顔じゃない、生活力のある女子が一番良い。

 俺は素直に今、この女子生徒に感動していた、名前忘れたけど。


「そ、そうかなぁ~えへへ~」


「ちょっと、人の友達を勝手に誘惑しないでくれる?」


「は? 俺は誘惑なんてしてないぞ、ただ褒めただけなんだが?」


「お願いだから素でそう言う事を言わないでくれない……」


 なんだか呆れた様子で井宮が俺にそう言う。

 何がそんなに問題なんだ?


「ね、ねぇあのさ……前橋君的には私をお、お嫁さんとかにしたかったりする?」


「は? 全然」


「あぁ……そう……ですよね……」


 確かに料理が出来ることは評価しよう、しかしそれ以外の事を考えるとこいつとは絶対に結婚なんてしたくない。

 だって陽キャだし、俺の趣味とか絶対に馬鹿にしてきそうだし。

 てか、褒めたからって俺にそんな意見を求めないで欲しいものだ。


「じゃあ、あとは頼んだぞ、こっちは鍋の準備してくる」


「わかったわ」


「井宮、一応聞くが……そのチョコレートはなんだ?」


「え? カレーにチョコレート入れると美味しくなるんじゃないの?」


 初心者に限ってそう言う冒険心を持っているから、料理の初心者は料理に失敗するのだろうな……。


「入れるなよ、絶対に」


「なんで? 美味しくなるなら良くない?」


「良くない! そういうのはちゃんと料理を覚えてからにしろ!」


 俺はそう言って、英司と池内の元に戻った。

 そのあと、なんとか普通のカレーが完成し、俺たちは食事にありついた。

 なんでこんなに俺疲れてるんだろう……リンゴを丸ごとを入れようとした高城を止めたり、飯盒の蓋を開けようとした英司を止めたりしていたからだろうか?

 とにかく、これを食ったらさっさと寝たい。


「いやぁーやっぱり前橋は流石だな、料理まで出来るなんて!」


「カレーくらい誰だって作れるだろうが、お前らが作り方を知らなすぎるだけだ」


 俺達がカレーを食べていると他の班の奴らが俺ったちに注目していた。


「くそぉ! 俺も高城さんの作ったカレーを食べたかった!」


「俺は井宮さんが切ったにんじんを!」


「俺は前橋が炊いた米を!!」


「「えっ………」」


「どうしたお前ら?」


 なんだ、一瞬寒気がしたぞ?

 まぁ良いか、それよりもちゃんと食える物が出来て良かった。

 カレーを食い終わると、俺たちはクラスごとに入浴時間がやって来る。

 施設の中にある風呂で結構広いらしい。

 

「俺たちのクラスの入浴時間って何時だっけ?」


「えっと一組の次だから……19時30分だな」


「それまでどうする? 一応自由時間だけど」


 俺たち三人はテントに戻り、風呂の支度を整えながらそんな話をしていた。

 現在の時刻は19時前、入浴の時間までまだ30分以上もある。

 

「暇だしなぁ~女子も誘ってトランプでもするか?」


「あぁそれ良いな、圭司もやるだろ?」


「え? あぁ、俺は良いよ。疲れたから休んでる」


「そんな事言わずにやろうぜぇ~」


「だからお前はくっつくな池内!」


 俺はお前が俺にした事を忘れてないからな!

 俺はお前なんぞと仲良くする気なんて毛頭ない!


「じゃあ、俺たちは女子のテント言って来るわ」


「あぁ、言ってらっしゃい」


 そう言って英司と池内は隣の女子のテントに行った。

 俺はスマホをモバイルバッテリーで充電しながらゲームを楽しんでいた。


「ログインして無いってことは、井宮も流石にゲームはしてないか……」


 ふと赤椿のログイン状況を見ながら俺はそんな事を考える。

 まぁ、あいつは俺と違ってボッチじゃねぇしな……。

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