第34話 宿泊学習編11

「なんでそんな事を聞くんだ?」


「え? あ、あぁその……きょ、興味があって……」 


 ま、まぁ話題を探して適当に聞いたんだけど……。

 私があたふたしながらそんな事を言っていると、前橋君は私の顔をじーっと見ながら聞いてくる。

 

「高城……お前もしかして……」


「な、なに?」


「俺と同じ小学校だったか?」


「え………」


 私はその時一瞬驚いた。

 まさか気がついてくれたの?

 なんて思ったけど、前橋くんの顔はそんな感じじゃなかった。

 なんだか怖い顔をしていて、何かを探っているような目だった。

 私はなんだかそんな前橋くんが少し怖かった、だから私は咄嗟にこう言ってしまった。


「ち、違うよ……」


「そうか……まぁ、そうだよな、悪いな変なこと聞いて」


「う、ううん、大丈夫だけど……小学校の時に何かあったの?」


 私は先程の前橋くんの様子からそんな事を聞いてしまっていた。

 私が転校する前までは前橋くんは普通に周りの子とも仲良く遊んでいたし、普通の小学生だと思ったけど、もしかして何かあったのだろうか?


「あぁ……まぁ色々な……まぁでも今と同じ、こんな感じのひねくれた小学生だったと思うよ」


 前橋くんはそう言いながら、どこか遠くを見つめていた。

 私が転向したあとに何かあったのだろうか?

 私は彼の横顔を見ながら、彼の小学校時代に何があったのかが気になった。


「あぁ、そういえば……小学生の頃、実は好きな子がいてな」


「そ、そうなの?」


 前橋君に好きなこ!?

 一体誰!?


「名前は忘れちまったんだけど……みんなからブーちゃんって呼ばれててさ……そいつ、泣き虫だけど優しくてな」


 へぇ……ブーちゃん。

 なんだか飼育されてる豚みたいな名前だけど……なんでこんなに親近感を覚えるのかしら?


「まぁでもそいつ、転校しちまってさ……正直、中学まで一緒だったらどっかのタイミングで告ってたかもな」


「そ、そんなに好きだったの?」


「あぁ……正直容姿は全然良くなかったと思うよ、太ってたしな……でもなんだかあいつと居ると安心できたんだよな……」


 そ、そんな子が小学生時代にいたなんて!!

 中の良かった私も全然知らない!!

 てか、誰よそのブーちゃんって!

 ……ん? ブーちゃん?

 私の小学生の頃のあだ名は………ブーちゃん?


「えぇ!?」


「うぉっ! な、なんだよ急に大声出して……」


「あ、いや……その……な、なんでも無い!! 私ちょっと泳いでくる!!」


「おい高城! 泳ぐのはまずいぞ! 水着じゃないんだから!! おい!!」





 いっちまった……なんだったんだあいつ?

 てか、なんで俺は高城に小学生の頃の淡い初恋話なんてしてるんだ?

 話がつながらないからって余計な事を話ちまったな。


「まぁ居なくなってくれたし、俺はこれかゆっくりゲームを……」


「はーい、そろそろ自由時間終了でーす、班ごとに集まって夕飯の支度を始めてくださーい!」


 終わった……俺の自由時間が……。

 それもこれも英司や池内、それに高城のせいだ!

 なんで俺なんかに話掛けてくる!

 俺なんか放って置いてくれればよかったんだ!

 そんなことを言っても時間は戻って来ない、仕方なく俺は自分の班の元に行き、夕食のカレーを作る段取りを始める。


「さて、まずどうする?」


「じゃぁウチラ女性陣が野菜とか切るから、男子は米炊いてよ」


「おう! それはいいな!」


 井宮の提案で作業の分担は女子と男子で別れた。

 

「まずは火を起こすのか」


「そんなのマッチの火を炭に移せば楽勝じゃね?」


 そう言って池内と英司はありったけの炭を用意し、そこにマッチの火を投げ込む。


「………あれ?」


「池内、火が消えたぞ」


「おかしいなぁ……引火しないのか?」


 いやするわけねぇだろ……こいつら陽キャのくせに火の付け方も知らないのか?


「あのなぁ……そんな簡単につくなら世の中に着火剤なんて物は必要なくなるだ」


「着火剤?」


「なんだそれ?」


 マジかこいつら……仕方ない、美味い飯を食うためだ。


「貸してみろ」


「え?」


「大丈夫なのか? 圭司? お前アウトドアとか出来そうに見えないけど」


「お前らよりはましだよ」


 俺はそう言って、着火剤と炭を使って火を起こし、米を炊く下準備を整える。

 こういうのはアウトドアが好きな親父から色々教えてもらった。

 親父の趣味がキャンプで良かったと思ったのは、これが始めてかもしれないな。


「お、おぉ!」


「す、すごい! 火だ! 火が!」


 なんで火一つでここまで盛り上がるんだよ……良いからさっさと米を洗って飯盒に入れろ。


「米ってどれくらい入れるんだ?」


「さぁ? 適当でいいんじゃないか?」


「あぁ! アホ! 貸せ! 俺がやる!!」


 俺はそう言って飯盒を英司から奪い取り、飯を炊く準備をすべて整え火の上に飯盒を置いた。

 なんで俺がこんな事を……。

 まぁでも、こいつらに任せてたら食える物が出来る気がしないしな……。

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