第33話 宿泊学習編10

「あぁ……いや、少し疲れちゃって」


 お前達陽キャの体力はそんなもんじゃないだろ!!

 お前達陽キャは、キャンプをしながらその後BBQをする程の化け物みたいな体力を持っているだろうが!!


「そうか、なら俺が少し体を動かしてこよう」


 まぁ、休憩場所を変えるだけなのだが……。 高城がここから居なくならないなら、俺が居なくなろうという作戦だ。


「あ、待って!」


「え?」


 俺は立ち上がってその場を去ろうとしたのだが、高城に服を掴まれ動けなくなってしまった。

 なんだこいつ、一体何がしたいんだ?


「も、もう少し話さない?」


 いや、何を!?

 俺は高城と話す事なんて何も無いんだが!?

 と言うかいい加減俺を一人にさせてくれ! 

「あ、あぁ……」


 まぁ、ここでその誘いを断ったら、今影から俺と高城を見ている男子達に殺されそうだし……ここは大人しく言うことに従おう。

 くそっ!

 隠れた歩兵に俺を狙わせ、俺を動けなくしたか!!

 どうする!

 このままじゃ俺は動けない!

 見事に高城の術中にハマってしまった!

 クソッ!

 流石は学校一の美少女A!

 他のクラスの男子まで影から覗いていやがるぜ……。

 

「あ、あのさ……前橋君って小学校の時はどんな子だったの?」


「え? 小学生の時?」


 あぁ……俺が一番思い出したくない時期だな……。

 しかし、なんで高城が俺に小学生の頃を聞いてくる?

 もしかしてこいつ、俺の小学生の時の事を知っているのか?

 俺が男子にいじめられていた、あの黒歴史を……。 


「なんでそんな事を聞くんだ?」


「え!? あ、あぁ……あの……きょ、興味があって……」


 なんだか急に歯切れが悪くなったな……。

 やっぱりこいつ、俺の小学生の頃を知っているのか?

 もしかして、そのネタを使って俺を揺すりに来ているのか?

 しかし、この話は今のクラスで知っている奴は居ないはずだ、英司にだって教えた

事の無い秘密のはず……。


「高城……お前もしかして……」


「な、なに?」


「俺と同じ小学校だったか?」


「え………」


 もしそうだと答えるので有れば、俺はもう高城とは話しをする事を避けたい。

 忌まわしいあの記憶を思い出してしまうから。



「ほら、いたよ。やっぱりあんなところでスマホ弄ってる」


「ほ、本当だ」


 私、高城優菜は同じクラスの井宮さんと草陰から前橋君を見ていた。

 前橋君は足を川に入れて、大きな石に座ってスマホを弄っていた。


「話し掛けるなら今がチャンスよ」


「そ、そうね! 私行ってくる!」


「頑張ってね」


 私は井宮さんにそう言って、ゆっくり前橋君の元に近づいて行く。


「何やってるの?」


「うぉっ! ビックリしたぁ……なんだ高城か」


 あ、少し驚かせちゃった……。

 前橋君は驚いた後、スマホの画面に視線を戻し私にそう尋ねる。


「前橋君は遊ばないの?」


「疲れる、体力の無駄だ、俺は休んで体力を回復させたい」


「そ、そっか……さっきは頑張ってたしね」


 なんだか前橋君らしいな……。

 さっきのレクリエーションの時も頑張ってたし……なんでだろう、好きな人の頑張ってる姿って、なんだか特別格好良く見えちゃうんだよね。


「あれは強制的にやらされただけ」


「で、でも凄かったよ! 最後のあれは……まぁ偶然みたいな感じだったけど」


「あぁ……あいつ怒ってるかな?」


 多分、怒ってると思う。

 と言うか、さっき見たけど前橋君を探してた気がする。

 ヤバイ、話しを変えないとなんか変な空気になっちゃった!


「ね、ねぇ……前橋君っていつもスマホでゲームやってるけど、スマホゲームが好きなの?」


「まぁな、スマホのゲームが好きって言うか、ゲームが好きなんだよ」


「そ、そうなんだ……私も良くスマホでパズルゲームとかするよ」


 あぁ……こう言うとき私もゲームとか詳しかったら、色々話せるのになぁ……私ゲームとかあんまりやらないしなぁ……。


「高城は遊びに行かないのか?」

 

「あぁ、いや私は少し疲れちゃって」


「そうか、なら俺が少し体を動かしてこよう」


 そう言って前橋君は立ち上がってその場を離れようとする。

 このままじゃ前橋君が行っちゃう!

 そう思った私は咄嗟に前橋君の服を掴んだ


「あ、待って!」


「え?」


 ど、どうしよう……勢いで止めちゃったけどなんて言ったら良いか……。


「も、もう少し話さない?」


「あ、あぁ」


 良かった、なんとか前橋君を引き留める事に成功した。

 でも、何を話せば……そ、そうだ……小学生の頃の事を少し聞いてみよう!

 もしかしたら私の事を思い出すかもしれないし!


「あ、あのさ……前橋君って小学生の頃はどんな子だった?」


「え? 小学生の時?」


 私がそう言うと、前橋君はなんだか難しい顔をしてしまった。

 私、そんなにまずい事聞いちゃったかな?

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