第27話 宿泊学習編4

「ねぇ」


「ん? なんだよ井宮」


「あんた格闘技なんてやってたの?」


「まぁ、家の方針でな……」


 小・中学校時代はやたらと習い事をさせられたものだ。

 幼い頃から色々な事をやっていれば成長して経験になるなんて言われてやってたけど、本当なのだろうか?


「へぇ~だからそんなに体つきがっしりしてるんだ」


「そうか? 野球部やサッカー部の奴には負けるって、高校入ってからは筋トレしかしてないし」


「え? あんた筋トレとかしてるの?」


「あぁ、これでも一応健康には気を付けているからな」


 陰キャで不細工でしかもデブなんてことにはなりたくないし、健康の為にと思って運動は続けている。

 それに姉貴がうるさいしな……。


「私はてっきりスポーツとは無縁の奴だと思ってたわ」


「無縁ではありたいがな」


「まぁ、大将頑張りなよ。私は私をエロい目で見てくる男子を全員ボコボコにしてくるから」


「英司逃げろ!! お前ボコボコにされるぞ!!」


「人をエロいみたいに言うんじゃねぇ!!」


 善意で言ってやったというのになんで怒鳴るんだ?

 クラスメイトたちは開始の合図を待ちながら戦の準備をしていた。

 大将はその存在をわかりやすくするために、背中に旗を背負ってハチマキをしなければいけないらしい。

 なんとも滑稽な姿だなと俺は鏡に映った自分を見ながらそう思った。


「あ、いたいた前橋!」


「なんだよ池内」


「そろそろ作戦を考えようぜ、先生達の話じゃあと20分でスタートみたいだし」


「作戦? じゃあガンガン行こうぜで良いんじゃね?」


「そんな某有名RPGの昔の作戦を出されても……」


「まぁ、確かにこれは投げやりか……じゃあ命大事にでいこう」


「そう言うことじゃねえって」


 俺は池内に連れられ、数人の男女が集まっている輪にやって来た。


「前橋、とりあえず前線でのリーダーを何人か決めておいた、作戦はこの五人で決めよう」


「野球部の八代(やしろ)だ! 話すのは初めてだよな? よろしくな!」


「サッカー部の九条(くじょう)だ、まぁよろしく」


「女子テニス部の大森(おおもり)です! 前橋君よろしく」


 うげぇ……見事に全員体育会系の陽キャじゃねぇか……しかも脳みそまで筋肉で出来てそうな奴ばっかりだけど大丈夫か?


「じゃあ、とりあえず作戦は最初はガンガン行こうぜで」


「いや、だからそれじゃあ……」


「いいなその作戦! やっぱり攻撃は最大の防御ともいうからな!」


「わかりやすいしそれで良いんじゃね?」


「そうね、まずは試合の主導権を握るのが大事よね!」


「あれ? なんであの作戦に賛同できるの!?」


 池内以外の三人は俺の意見に賛同してくれた。

 こいつらもしかして良い奴?

 まぁでも俺の適当に考えた作戦に賛同されてもなんか複雑だな……。


「こんな作戦で勝てるわけ……」


「わかったよ池内、ちゃんと考える。だけど良く考えても見ろ。俺たちはまだ同じクラスになって数カ月だ、そんな奴らに難しい作戦を伝えても実行なんて出来ねぇだろ?」


「まぁ、確かに……」


「まぁだからお前らには簡単に三つの作戦を実行してもらう」


「「「三つの作戦?」」」


「あぁ、まずは……」





 生徒たちがそれぞれの陣地向かった後、先生達が待機している救護スペースでは二人の先生が話をしていた。

 一人は養護教諭の村上(むらかみ)先生。

 もう一人はルールの説明をした石城(せきじょう)先生だ。

 女性同士であり、年齢も近いこの二人は教師の中でも仲が良かった。


「毎回思いますが、うちの学校は本当に自由ですんねぇ……これじゃあ合戦だ」


「うふふ、良いじゃないですか村上先生、このレクリエーションの主旨である、クラスの結束を強くするという目的にはピッタリです」


「そうだけど……なんでこんなルールに? ルールを考えたのって、石城先生よね?」


「実は最近大河ドラマにハマって……」


「完全に趣味じゃないのよ!」


「前田慶次がカッコよくてつい……しかもうちの学校には名前のよく似たイケメンも居るし」


「あぁ、前橋圭司君ね……それでこんな形にしたの?」


「そうよぉ~面白いでしょ? しかも二組の大将も前橋君なのよぉ~なんか運命感じちゃうわよねぇ~」


「はぁ……アンタは……そう言えば一位になったクラスには何かあるんじゃないの?」


「あ、そうだったわいけない! 早く放送で教えないと!」


「ちなみに勝ったクラスには何がプレゼントされるの?」


「大した物じゃないわ、お菓子よ」


「まぁ、それぐらいよね? 授業の一環だし」


「そうよ授業の一環だもの、あと副賞に先生と結婚できる権利をプレゼントするくらいよ」


「いや、副賞」


「え? 何か問題ある?」


「大ありよ! あんた何生徒に手を出そうとしてるのよ!!」


「大丈夫よ、結婚するのは高校を卒業してからだから、婚約みたいなものね」


「いや、大丈夫じゃないでしょ!! 大体この企画を提案した時校長は何も言わなかったの!」


「え? まぁ卒業後なら大丈夫じゃない? ってハンコ押してくれたわよ?」


「うちの学校自由過ぎでしょ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る