第28話 宿泊学習編5

「まぁ、贅沢は言わないから前橋君に勝ってもらって、教師と生徒の禁断の恋ってやつを経験してみたいわ~」


「いや、男子高校生狙ってる時点で大分贅沢だし、社会的にも信用を失うからやめなさい!」


「校長がハンコ押したのに?」


「校長がハンコ押してもダメでしょ! 第一生徒だってそんな権利いらないわよ! 三十路の女との結婚権利なんてただの罰ゲームよ!」


「酷いわ村上先生! 自分は結婚して旦那と子供がいるからって!!」


「い、いやそう言う訳じゃ……」


「良いわよ……そうよ、どうせ私は売れ残り……もう生徒に手を出さないと貰い手なんて……」


 石城先生はそう言って地面に膝をつく。

 そんな石城先生を見ながら、村上先生は「また面倒な事に……」なんてことを思っていた。

 毎回、夫の話した子供の話をすると石城先生はこうなっていた。

 女としての幸せを勝ち取った村上先生と自分を比較しているのだ。


「はぁ~本当に早く誰か貰ってあげてよ」


 村上先生はそう良いながら、魂の抜けた同僚に目を向けてため息を吐く。





 レクリエーションスタート五分前、俺は背中に旗を付けられ、額にはハチマキを巻かれて酷く不機嫌だった。


「なぁ、英司」


「なんだよ」


「この役代わってくれ」


「クラス全員の総意なんだ、代われるわけねぇだろ」


「そう言わずに頼む、思っていたより恥ずかしくて死にそうだ」


「じゃぁそのまま死ねばいいんじゃね?」


 俺の隣で渡されてスポンジ製の剣で遊びながら英司はそう答える。

 友人がこんな晒しものになっているというのになんという奴だ全く!!


『はい、それじゃあ全員準備は良いかしら?』


「あれ? 放送が石城先生から村上先生に変わったな」


「何かあったのかな?」


 クラスメイトがそんな話をする中、村上先生の放送は続いた。


『それじゃあ、今からレクリエーションを始めます、三クラスとも正々堂々と勝負するのよ』


 と、スタートの合図としてはいまいちな放送が終ったあと、クラスメイトはざわついていた。


「え? 始まったの?」


「やっぱりこういう祭事は石城先生じゃないと盛り上がらないな」


「村上先生は真面目だからな」


 それは確かに言えているかもしれない。

 これではなんだかメリハリがない。

 まぁ、でもそれは他のクラスも同じはずだ、どこのクラスも戸惑って責めてきたりは……。


「突撃ぃぃぃぃぃぃ!!」


「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 来ちゃったよ……もう攻めてきちゃったよ……。

 俺達が陣取っている広場の入口から恐らく一組とみられる生徒が雪崩れ込むように広場に入って来る。

 先手を取られるとは幸先が悪いな……このまま負けても個人的にはいいのだが、その場合、クラスの奴らから使えないだの役立たずだの言われて虐められるのは嫌なので、少し真面目にやろう。


「八代! 九条! 言った通りに頼むぞ!」


「おうよ! 任せろ!!」


「わかった!」


 俺は二人にそう叫び、他の生徒には逃げるように指示を出した。

 八代と九条は数人の男子を連れて、一組の奴らを分断するために逃げ回り始めた。

 まぁ、一組の奴らは恐らく自分の陣地から走ってここまで来たのだろう、絶対にばてる生徒が出て来る。

 八代と九条にはそのバテた奴らから倒し、数を減らしていくように言っておいた。

 元から陣地から動かない作戦にしておいてよかった。

 俺は戦場から少し下がり、予備の生徒たちの指揮を取る。


「流石運動部で固めただけあって、体力はあるな」


「でも、油断は出来ないぞ、一組の大将はあの柔道部の大林だ!」


 池内がそう言って指さした先には、体格の良い男子生徒? いや、おっさんに見えなくもない……ような奴がいた。

 力任せにスポンジの剣を振り、うちのクラスの運動部男子を薙ぎ払っている。


「あれ……人間? てか、これちゃんとスポンジだよな?」


「何を言ってるんだ? こんなに柔らかいじゃないか、大丈夫だよ」


「いや、そうだけど……人が飛ばされてんだけど」


 大林は剣を振りながら俺の方に真っすぐは知って来る。

 そろそろ八代や九条のとこも厳しいだろう。


「よし、大森! 頼むぞ」


「オッケー! 任せておいて!」


 俺と一緒に下がっていた大森にそう言い、大森と数名の女子を八代と九条達のもとに合流させる。

 これで残りの雑魚もなんとか対処できるだろう……しかし、あの巨漢の大林をどうする?

 残っている戦力はおまけ程度の女子と文化部男子だけだぞ……いや、まて!

 俺には最強の兵が残っているじゃないか!

 あいつならやってくれる!

 奴を止めてくれる!


「よし! 英司! 今回はお前に大将首をくれてやる! 行けっ!」


「よっしゃ任せろ! って無理に決まってんだろうボケナス!!」


「どうした? それでも俺の最強の鉄砲玉か?」


「それはなんだ? 俺に死んで来いって言ってるのか?」


「端的に言うとそうだ、あの大林ってやつのスキを作ってくれればそれでいい」


「嫌に決まってんだろ! お前も見ただろうが! あいつさっきこの柔らかい剣で人を飛ばしたんだぞ!!」


「二階級特進してこい」


「死んでんだろうがそれ!!」

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