第22話 美少女は美少女を応援する



 私は高城さん階段の踊り場に呼び出していた。

 理由は簡単だ、朝からのあの行動とこの間のファミレスでの件についてだ。


「どうしたの? 私に何か用事?」


「いや、あたしが言うのもなんなんだけどさ……あいつって一人で居るのが好きなわけよ、だからあんまりしつこく絡んでると嫌われるよ?」


「え!? そうなの?」


 知らなかったんだ……てか、見てれば察しはつくでしょ。

 あいつから声を掛けてくるな、近寄るなのオーラがバリバリ出てるでしょうが。

 

「うん、だからあんまりしつこく話掛けたり、くっ付いて行ったりするのは逆効果だよ?」


「じゃあ、どうやって前橋君から信頼を得れば良いの!?」


「そ、それは……」


 そう言われると確かにそうよね……話掛けたら不機嫌になるし、近寄って行っても不機嫌になる。

 そんな相手からどうやって信頼を勝ち取れば……。

 あ、そう言えば一人だけ居るじゃない!

 あの拗らせイケメンから信頼を得ている男子が一人!


「あのさ高城さん、こういうのはどう?」


「え? なぁに?」


「うちのクラスでたった一人だけ普通に前橋と話をしている……えっと名前なんだっけ? とにかくその男子にどうすれば前橋から信頼を得られるかを聞いてみるってのはどうかしら?」


「なるほど! そうすれば、前橋君からの信頼を得るための情報を手に入れることが出来るってことね!」


「ま、まぁ成功するか分からないけど……」


 てか、ある意味私も知りたいわね、あのひねくれ者に友達って言われているあの男子がどうやって前橋と友達になったのか……。

 それともう一つ、私は彼女に聞いてみたいことがあった。


「あのさ、高城さんに一つだけ聞きたいんだけど良いかな?」


「うん良いよ、実は私も井宮さんに聞いてみたいことがあったし」


「え? 私に?」


 まさか向こうも私に聞きたいことがあるなんて、一体なんだろう?


「えっと、じゃあ先に高城さんからでいいわよ」


「そう? じゃあ私からの質問なんだけど……井宮さんって前橋君の事が好きなの?」


「え?」


「どうなの?」


「いや、全然そう言うのじゃないわよ、確かにイケメンではあると思うけど」


 何を聞いてくるかと思えばそんな事か……。

 まぁ、あんな姿を見ていればそう思うのも無理はないか。

 それに私の予想だとこの子は恐らく……。


「あのさ、私からも良い?」


「えぇ良いわよ」


「高城さんって……前橋の事が好きよね?」


「ふぇっ!?」


 私がそう言った瞬間、高城さんは顔を真っ赤にして急に挙動不審になり始めた。


「な、ななななんで私が前橋君を!? た、確かにカッコいいけど!!」


 うわぁ……わっかりやすいなぁこの子……。

 まぁ概ね私の予想通りね、そんな事だと思ったわ。

 じゃなきゃファミレスであんな事を言う訳ないし。


「あぁ、大丈夫大丈夫、誰にも言わないから」


「うぅ……は、恥ずかしい……」


「ま、確かにイケメンだしねぇ」


 顔だけな。


「た、確かにそれもあるけど……前橋君はその……や、優しいから……」


「え?」


 あれ?

 もしかしてこの子、私とは違う人物を想像してる?

 優しい?

 あの拗らせイケメンが?

 もう色々拗らせすぎて全然優しくない人になってるのに?

 

「じ、実わね……私、彼とは小学生の頃同じクラスだったの……でも私は小学四年生で転校しちゃたんだけど、中学に入学する時に戻ってきて……」


「そ、そうなんだ」


 あぁなるほど、小学生の頃は優しかったとかそんな感じか。

 てか、前橋はこの子の事全然覚えてないみたいだけど?


「でも、前橋君は全然私の事覚えてくれてなくて……でもそれは辺り前なんだ、だって当時の私……こんなのだし」


 そう言って彼女はスマホの写真を見せてくる。


「え? うわっつ! これ、本当に高城さん!? 結構あの……ぽっちゃりだけど」


 そうは言ったが、スマホに写っている彼女の写真にはかなり大きな女の子の写真が写っていた。

 

「小学校四年生の頃の私でね……あだ名はブーちゃんだった」


「何その飼育されてる豚につけられそうな名前」


「あはは……私こんなんだったから、クラスのみんなからも良くからかわれてて……でもそんな時前橋君が私を守ってくれたの! そのころから私、ずっと彼が好きで、前橋君に釣り合えるようにって、こうなったの」


「恋ってマジですごいってことは分かった」


 まさか小学生の頃に恋した相手の為に、豚が美少女になるなんてすごすぎる。

 おそらく前橋の事だから小学生の頃も女子から人気あっただろうし、その前橋と釣り合うために可愛くなろうって思ったんだろうけど、並大抵の努力じゃなかっただろうな……。


「痩せて、見た目も気を使って、高校も同じに慣れたのに……まさか友達になることまで拒否られるなんて……」


「あぁ、高城さんもダメだったんだ」


 可哀想に……なんだか段々可哀想になってきたな……。


「でもよかった、井宮さんが前橋君を好きじゃなくて」


「なんでよ?」


「だって、井宮さんすっごく可愛いから……ライバルだったら私勝てなかったし……」


 決めた、私この子の事全力で応援する。

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