第21話 彼女はついてくる
「どうって言われても、どうも思ってないんだが」
「そ、それって嫌いでは無いってこと!?」
「え? あ、あぁ……まぁ……」
俺がそう言うと、高城はグイっと俺の方に寄ってきてそう尋ねてきた。
なんなんだこいつは……一体何が目的なんだ。
もう意味が分からない、俺はただ普通の生活が送りたいだけなのに!
なんでこんな事になってしまったんだ……。
「そ、そっか……な、ならよかった」
「何が……」
もうすぐ学校の近くに来てしまう。
はぁ、一緒に歩いているところなんかを他の奴らに見られたら、絶対に嫌がらせされる。
下駄箱にまた不幸の手紙を入れられる。
はぁ……俺みたいな根暗ボッチの陰キャに構わないでくれよ。
そんな事を考えながら登校していると、やっぱりみんなから見られている事に気が付いた。
何やらコソコソ話をしているようだが、聞かないようにしよう。
「うぉ! 高城と前橋だ!」
「なんだあのツーショット! 顔面の偏差値が違いすぎて近づけねぇ!!」
「今年の一年は化け物か!」
一体何を話しているのやら。
まぁ知ったところで俺にとっては良い話ではなさそうだし。
でもあと少しで教室だ、ようやくこの地獄から抜け出せる!
あと少しだ、あと少しで俺はこのまぶしいくらいに輝いている学校内カースト上位の高城から離れることが出来る!
そんな事を考えながら教室に来たのだが……。
「ねぇ前橋君、昨日の課題やってきた?」
なんでこいつはいつも話てるリア充軍団のところに行かずに、俺の席で俺に話掛けてんだよ!!
頼むから一人にさせてくれ!
俺は一人が好きなんだ!
ホラ見ろ!
クラスの奴らが「高城さんが不細工に話掛けてる!!」って驚いてるだろうが!!
まぁ、俺の妄想なのだが……でもクラスのみんなから見られている事に代わりはない、さっさと自分の居るべき場所に戻れ!
「まぁ、やって来たけど」
「じゃぁ問の5分かった? 私分からなくてさぁ~」
「じゃあノート貸してやるから解いてくれば、授業前に返してもらえればいいから」
よし!
これで高城は俺の席から離れて問題を解きに向かうはずだ!!
これでようやく俺のいつも通りに日常が……。
「そんなの悪いよ、あとで自分で解いてみるから大丈夫。授業も今日の午後からだし」
くそっ!
失敗か!
なんで大人しく俺のノートを写さない!
俺のノートは汚いとでも思っているのか?
どうする……ホームルームまであと十五分、朝の貴重な時間を高城に奪われるのはいやだぞ!
俺の朝のソシャゲ時間が無くなる!!
どうする……そうだ!
こういう時こそ、唯一の友人の英司君に助けてもらおう!
あいつならもう俺の心情を察してくれるはずだ!!
そう思って俺は英司の方に視線を向けた。
「………」
なんでだろうか、英司は人でも殺しそうな目で俺向かって無言で中指を立てていた。
ダメだ、あいつはやっぱり使えない!
そうだ!
トイレに行こう!
トイレは女子禁制の男の聖地だ!
あの中であれば、高城も入っては来れないぞ!
「悪い、俺ちょっとトイレに……」
「あ、分かった」
「………」
「………」
なんでついて来る!?
お前は教室に居ろよ!
お前が付いてきちゃ意味無いんだよ!
え? この子トイレの中までついて来ないよね?
なんか段々怖くなってきたんだけど!
うわぁーん! 助けてお母さん!!
「高城」
「え?」
「ごめん、ちょっといい?」
そう言って廊下に出た高城さんを呼び止めたのは井宮だった。
「なぁに?」
呼び止められた高城は井宮の方にニコニコしながら振り返った。
「ちょっと話あるから、私と来てくれる?」
「あ、うん良いよ。じゃあね前橋君」
あ、姉ごぉぉぉぉ!!
流石は赤椿さん!
ゲームでもリアルでも俺のピンチを救ってくれるのはあんただけだよ!
ありがとう!
今度ゲーム内でレアアイテムをプレゼントしておこう。
俺はそんな事を考えながら、トイレに向かい高城から解放された事を喜んだ。
「はぁ、一人最高」
トイレで俺は思わずそんな独り言をつぶやいてしまった。
教室に戻り、少しするとすぐにホームルームが始まった。
高城と井宮はホームルーム前ギリギリに戻って来た。
一体何を話していたのだろうか?
そんな事を俺が考えていると、俺の気持ちに応えるように井宮からメッセージが届いた。
内容は昼休みに屋上に来いというものだった。
なんだろうか?
朝の出来事以降、高城が俺に絡んでくることは無かった。
もしかしたら井宮が何か言ってくれたのかもしれない。
いやぁ、流石は井宮、どっかの使えない友人よりも俺を助けてくれる。
「おいコラハゲ」
「ん? おぉどうした? さっきは助けてくれなかったくせに」
俺が英司の事を考えていると、眉間にシワを寄せた英司が俺の元にやって来た。
「どうしたじゃねぇ! お前いつの間に高城さんと登校するようになったんだよ!」
「あぁ、酷い話だろ? 俺は高城のせいで見世物にされちまった」
「どこがだよ! 男にとってはめちゃくちゃうれしいことだろうが! 学校一の美少女だぞ!」
「俺はそう言うの興味ないから」
「あぁぁぁぁぁこのイケメンムカつくぅ~!! その顔俺によこせ!」
「何を言ってるんだ? こんな不細工面が欲しいのか? もっとマシな顔を欲しがれよ」
「お前の美的感覚どうなってんだよ! くそぉ……井宮では飽き足らず高城まで……はぁ。……俺はお前が羨ましい」
「どこがだよ……」
こいつも俺の苦労を知ればこんな事は言わないのだろうがな……。
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