第9話 それでも彼女は……そして俺は……
まさかこんな形で赤椿さんと出会うとはな……。
「まさか、赤椿さんがこんなギャルだとは思わなかったよ」
「う、うるさいわねぇ! 良いでしょ別に」
「まぁ確かにネット上での付き合いで見た目は重要じゃないからな」
そうは言ったが、俺も初めてネット上での友人とリアルで会うが、意識していなくても相手の容姿や見た目を確認してしまうな。
人間の第一印象を決めるのはやはり見た目ということか……。
まぁ、正直言うと井宮は美少女と言っても過言ではない見た目だし……まぁギャルだけど……。
俺以外のゲーマー男子がこいつとリアルで会ったら大喜びだろうな。
それに比べて俺はどうだ?
不細工で根暗でひねくれ者……はぁ、普通に印象最悪だな。
井宮もきっとこんな俺とゲーム友達なんてことを周囲に知られたくないだろうし……。
ここは俺から井宮にこう言ってやるのがベストだろうな。
「井宮」
「何よ」
「今日俺たちはお互いのネット上での正体を知ってしまったわけだ」
「まぁそうね」
「だが、やっぱりネットはネット、リアルはリアルだ。お互い今まで通りで行こう」
「え? な、なんでよ、今度からは学校でもゲームの話とか出来るのよ?」
「いや、俺なんかと仲良くしてたらお前、陰で何を言われるかわからないぞ?」
「いや、まぁそれは……」
「だから今日の事はお互い胸にしまって、またゲームの中とネット上だけの関係にしよう」
「いや……でも……」
「それがお互いにとって一番良い状態だ。それに俺はリアルの友人は一人で十分だと思ってるからな」
「わ、私は別に気にしないわよ? 言いたい奴には言わせておけばいいし、それに女子から恨まれても私は別に怖くなんてないわよ」
女子から恨まれる?
一体どういうことだ?
あぁそうか、俺みたいな根暗で不細工でひねくれた奴と一緒に居るのを見た他の女子が、井宮の事を男子に媚びを売る性悪女だと噂するって話か!
うーむ、どうやら俺は井宮を誤解していたらしい。
俺みたいな不細工にも分け隔てなく優しく接してくれる奴だったとは……。
正直俺みたいな不細工には厳しいやつだと思っていた。
「いや、やっぱりお前には迷惑はかけたくない、今まで通りでいようぜ」
「あ、ちょっと!」
俺はそういいながら、屋上を後にした。
正直、井宮がこんなに優しい奴なんだとわかっていたなら、もっと最初から仲良くできたかもしれない。
まさか、リアルで友人になっても良いかもと思える女性は居るとはな……。
*
「……なんなのよ……馬鹿」
私は一人になった屋上で、そうつぶやきながら先ほどまで前橋としていたゲームの画面を見る。
「あいつ……私のためにあんなこと言ったのかな?」
前橋はきっと、自分が女子から人気があるのを分かっていた。
だから、私に今まで通りの関係で居ようなんて言い出したんだ。
きっと前橋は私が自分と親しい関係になることで私が他の女子から反感を買うのではないかと思ったのだろう。
なによ……私は別にそんなに気にしないのに……。
本当は前橋とお昼休みも放課後も一緒にさっきみたいにゲームをして過ごしたい。
そうすれば学校がもっと楽しくなるのに……。
「はぁ……かっこつけて……馬鹿」
実際カッコいいと思ってしまった。
今まであんまり話したことなかったし、この前のあの一件で性格最悪の最低野郎とまで思ってしまったけど、本当は優しい奴なんだと知り、そのギャップに私は少し不覚にもどきっとしてしまった。
「でも……あいつモテるから、もしかしたら過去に何かあったのかも……」
もしかして、昔仲の良い女の子が前橋と仲良くしたことによっていじめにあったとか!?
それでそんなことを再び引き起こさないために!?
「あぁもう!! 仕方ないなぁ!!」
私は自分の考えを整理し、屋上で声を上げた。
*
井宮が赤椿さんだと知った日の翌日。
俺はいつも通り、学校に登校した。
あれから赤椿こと井宮とは普段通りの付き合いに戻った。
メッセージも普通に戻り、俺の日常はいつも通りだった。
登校し自分のクラスに入る、俺はその時ふと井宮の事を目で探してしまった。
井宮は今日も仲良くしている同じギャルっぽい子たちと話をしている。
俺はそんな井宮を横目で見ながら、自分の席に座りいつも通りスマホを弄り始める。
これでいい、俺には俺の住む世界が、彼女には彼女の住む世界がある。
その世界を壊すわけにはいかない。
そんなことを俺が思いながらスマホを弄っていると、俺の机に誰かがやってきた。
英司か?
そう思って顔を上げると、そこには笑みを浮かべる井宮が立っていた。
「おはよ、前橋」
「い、井宮!?」
俺は思わず立ち上がってしまった。
周りを見ると、クラスの全員が俺と井宮に注目していた。
「ねぇ、今イベントボス来てるからまた手伝ってよ」
「お、お前なぁ……昨日の言葉を忘れたのか!?」
「え? あんた昨日何か言ったっけ?」
「いや覚えてんだろ!」
「あ、ルーム開いたからさっさと入って」
「いや人の話を聞け!」
俺がそう言うと井宮は真面目な顔で俺を見て話し始める。
「友達って、周りの視線を気にしなきゃなれないの?」
「え?」
「私ら、もう二年も長いこと付き合ってる友達でしょ……だから、これからも仲良くしよ」
そういう彼女。
そうか……彼女はあんなことを言った俺にさえも……。
「井宮……」
「前橋」
笑顔でそういう井宮、俺はそんな井宮にこういう。
「いや、嫌だけど」
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